はじめに
この記事では、筆者がマカティ在住中にBPI Tradeを使ってPSE(フィリピン証券取引所)に投資した実体験を書きます。口座開設の手順、IPOへの参加方法、個別株・インデックス両方への投資内容(数十万ペソ規模、現在も継続中)、そして実際に7年間使ってみて感じたことまで、BPI TradeでのPSE投資に関する内容を一本にまとめています。
BPI Tradeとは
BPI(Bank of the Philippine Islands)が提供するオンライン証券サービスです。BPI銀行口座と連携しており、資金移動がスムーズなのが最大の特徴です。PSE(フィリピン証券取引所)の個別株・インデックスファンドにオンラインで投資できます。
BPI Tradeは銀行口座とは独立した証券口座(ブローカー口座)です。BPI銀行の信託部門が扱うUITFとは別の商品カテゴリで、BPI Trade口座ではPSEに上場している個別株をリアルタイムで売買できます。フィリピン証券取引委員会(SEC)の監督下に置かれた正規の証券ブローカーサービスであり、銀行系ということもあって安定性・信頼性の面では個人的な印象として他の独立系ブローカーより安心感がありました。
BPI口座とBPI Tradeの使い分け
| 口座 | 用途 |
|---|---|
| BPI銀行口座 | UITFの購入・管理 |
| BPI Trade口座 | PSE個別株の売買 |
UITFだけやりたい方はBPI銀行口座だけでOKです。個別株も始めたい方はBPI Tradeの口座開設が別途必要になります。
PSE投資を始める前に知っておくべきこと
PSEへの投資を始める前に、日本の投資環境との違いとして押さえておきたいことがあります。
フィリピンの税制(株式売買): PSE上場株式の売却時には、株式取引税(Stock Transaction Tax)として売却代金の0.6%が課税されます。これは利益ではなく売却総額に対してかかるため、損が出ていても発生します。配当金については源泉徴収が行われますが、税率は居住ステータスや日比租税条約の適用状況によって異なります。
情報は英語とタガログ語のみ: PSE上場企業の有価証券報告書・決算開示はすべて英語で行われます。日本語の投資情報はほぼ存在しないため、英語の財務諸表・IR情報を自力で読む姿勢が必要です。PSE EDGEというPSEの公式開示サイトで各社の決算・開示を確認できます。
ペソ建て運用のリスク: PSE投資はペソ建てのため、帰国後に日本円に換算した場合の円/ペソ為替レートの影響を受けます。投資リターンをペソで得ても、円安が進むと日本円換算での実質価値が目減りする可能性があります。あくまでフィリピン在住中のペソ資産の運用として位置づけるのが現実的です。
口座開設の手順
この記事では、筆者がマカティ在住中にBPI Tradeの証券口座を開設した実体験を書きます。BPI銀行口座を開設してから数年後に開設しましたが、手続き自体はスムーズでした。
口座開設の前提条件
BPI Trade口座を開設するには、まずBPI銀行口座が必要です。
必要なもの:
- BPI銀行口座(開設済みであること)
- パスポート
- ACR Iカード
必要書類の詳細と準備のコツ
上記3点に加えて、口座開設の申込フォームに記入するために以下の情報を手元に用意しておくとスムーズです。
- BPI銀行口座番号:口座番号・支店名・支店コードを控えておく
- 雇用情報:会社名・住所・役職・月収の目安(英語で記入)
- 投資経験・リスク許容度:「初心者」「中程度」などを英語で選択する欄があります
- パスポートのコピー:原本に加えてコピーを1部持参すると手続きが早い場合があります
- ACR IカードのコピーAも同様に持参を推奨
筆者が開設したときは、支店でフォームを記入しながら必要事項を確認する形でした。事前に雇用情報や収入情報を英語でメモしておくと、窓口でのやり取りがスムーズになります。
口座開設の手順
- BPIマカティ支店へ行き、BPI Trade口座開設を相談
- スタッフに手順を案内してもらう
- オンラインで申込手続きを進める
- 審査完了後に口座開設完了
- オンラインにログインして取引開始
筆者はBPI支店のスタッフに手順を教えてもらいながらオンラインで完結しました。筆者は英語がネイティブレベルのため、スタッフとのやり取りはスムーズでした。英語に不安がある方はBDOの日本人窓口で相談してからBDO Securitiesで開設する方法もあります。
口座開設当日の流れ(時系列・詳細)
実際の支店訪問から口座が使えるようになるまでの流れを詳しく説明します。
支店訪問(所要:1〜2時間) BPI支店の入口でセキュリティガードに「I'd like to open a BPI Trade account.」と伝えます。BPI Trade専用の窓口がある支店とない支店があるため、混雑状況によっては一般口座担当スタッフが対応してくれます。
担当スタッフに案内されたら、以下の流れで進みます。
- 持参書類の確認(パスポート・ACR Iカード・BPI口座番号)
- 申込フォームへの記入(紙またはタブレット端末で入力)
- 投資経験・収入に関するヒアリング(英語でのやり取り)
- 書類の提出・署名
筆者の体感では、書類に不備がなければ支店での手続き自体は1時間前後で完了しました。待ち時間を含めて1〜2時間を見ておくと安心です。
審査期間(2〜5営業日) 支店での書類提出後、BPI側で審査・登録処理が行われます。筆者の場合は3営業日ほどで口座開設完了の通知がメールで届きました。
開設にかかった日数の実体験
支店訪問から実際に取引できるようになるまでの期間は、筆者の場合で合計約5日でした。内訳は支店での手続き当日+審査に3〜4営業日です。急いで投資を始めたい場合は、余裕を持ってスケジュールを組むことをおすすめします。
BPI銀行口座との連携
- BPI口座からBPI Tradeへの資金移動が即時
- 同じオンラインバンキングIDで管理可能
- 給与受取口座(BPI)から直接投資資金を移せる
入金方法(BPI口座からBPI Tradeへの資金移動)
BPI銀行口座からBPI Tradeへの資金移動は、BPIオンラインバンキングまたはBPI Trade専用ポータルのどちらからでも行えます。
操作手順(概要):
- BPIオンラインバンキングにログイン
- 「Investments」または「BPI Trade」メニューを選択
- 「Fund Transfer to BPI Trade」を選択
- 移動金額を入力・確認して実行
移動した資金はほぼ即時にBPI Trade口座の購買力(Trading Fund)に反映されます。取引時間内(PSEは月〜金の9:30〜15:30)であれば、入金直後から株式の購入が可能です。
売却後の資金をBPI銀行口座に戻す場合も同様の手順で行えます。BPI同士の連携なので、他行への振込に比べて手間が少なく、筆者は必要なときに都度移動する形で管理していました。
BPI Tradeのログイン・初期設定
口座開設完了後にBPIから届くメールには、BPI Tradeへのアクセス情報が記載されています。
初回ログインの手順:
- BPI Tradeのウェブポータル(またはBPI Online Bankingの投資メニュー)にアクセス
- 初回は仮パスワードでログイン → 任意のパスワードに変更
- セキュリティ設定(秘密の質問・二段階認証など)を完了
- 投資家プロファイルの確認(リスク許容度・投資経験)
画面はすべて英語ですが、ナビゲーションはシンプルで操作に迷う箇所は少なかったです。初回設定を終えれば、次回以降はBPI Online Bankingと同じ認証情報でアクセスできます。
取引画面の使い方(買い注文・売り注文)
株式の検索: PSEの銘柄はティッカーシンボルで検索します。例:SM(SMインベストメンツ)、ALI(アヤラランド)、BPI(BPI株)、PLDT(PLDTフィリピン通信)など。銘柄名の一部入力でも候補が表示されます。
買い注文の操作:
- 銘柄を検索して選択
- 「Buy」をクリック
- 注文種別を選択:
- Market Order(成行):現在の最良価格で即時約定
- Limit Order(指値):指定した価格以下での購入を指示
- 株数を入力
- 取引コストの概算(手数料込みの合計額)を確認
- 「Confirm」で注文送信
売り注文の操作: 買い注文とほぼ同じ手順です。「Sell」を選択し、保有中の銘柄から対象を選んで株数・価格を入力します。
個人的な印象として、BPI Tradeの取引画面は必要最低限の機能に絞ったシンプルなUIです。高度なテクニカルチャートや板情報を確認したい場合には物足りなさを感じましたが、「注文を入れる・ポートフォリオを確認する」という用途には十分でした。
取引手数料の詳細
BPI TradeでPSE株式を売買する際の費用構造は以下のとおりです。
| 費用の種類 | 率 | 備考 |
|---|---|---|
| ブローカー手数料 | 約0.25% | 最低手数料あり(PHP 20前後) |
| PSE取引費用 | 0.005% | — |
| SEC手数料 | 0.01% | — |
| SCCP手数料 | 0.01% | — |
| 印紙税(DST) | 0.15% | 買い注文のみ |
| VAT | 手数料の12% | ブローカー手数料に課税 |
実際の往復コスト(買い+売り)は取引金額の1〜1.5%前後になるケースが多かったです。少額取引では最低手数料の影響が大きいため、1回あたりPHP 20,000以上をまとめて取引する方が手数料率の観点では効率的です。
開設して良かった点・不便だった点
良かった点:
- BPI銀行口座との資金移動が即時かつ手間なし
- 給与受取口座(BPI)と証券口座が同一グループで管理がシンプル
- BPI Online Bankingと統合されており、残高・資産を一元把握できる
- 銀行系ブローカーとしての安心感・サービス安定性
不便だった点:
- IPO申し込みが支店訪問必須で手間がかかる(BDO SecuritiesはオンラインでIPO申し込み可)
- 取引画面のチャート機能が簡素で、テクニカル分析には別のツールが必要
- 画面・サポートがすべて英語のみ
- 注文ステータスの確認・変更がやや煩雑に感じる場面があった
体感として、「日々の株式売買にはBPI Trade、IPO申し込みはBDO Securities」という使い分けが自然と定着しました。
BDO Securitiesと迷っている人へのアドバイス
BPI TradeとBDO SecuritiesはどちらもPSEへの投資手段として機能しますが、選ぶ際のポイントを整理します。
BPI Tradeがおすすめな場合:
- すでにBPI銀行口座を保有している方
- 給与・生活費管理もBPIで行っており、証券も同一グループで完結させたい方
- UITFと個別株をBPI内でまとめて管理したい方
BDO Securitiesがおすすめな場合:
- すでにBDO銀行口座を保有している方
- IPOへのオンライン申し込みを重視する方(BDO Securitiesは支店不要)
- BDOの日本語窓口のサポートを受けながら投資を始めたい方
両方開設する場合: 筆者はBPI Tradeをメイン・BDO Securities(旧BDO Nomura)をIPO用サブとして併用していました。手数料率はほぼ同等のため、費用面での差はほとんどありません。銀行口座との連携を考えると、まずメインバンクに合わせた証券口座から開設するのが最も手間が少ない選択です。
※この章は2013〜2020年の体験をもとにしています。現在の手順・必要書類は変更されている可能性があります。必ず最新情報をBPI公式サイトでご確認ください。
IPOへの参加方法
この記事では、筆者がマカティ在住中にPSEのIPO(新規公開株)に4回以上参加した実体験を書きます。参加したのはいずれもフィリピン市場への上場予定株式のIPOです。
BPI TradeとBDO NomuraのIPO申し込み方法の違い
| 項目 | BPI Trade | BDO Nomura |
|---|---|---|
| 申し込み方法 | 支店訪問が必要 | オンラインで完結 |
| 手間 | やや手間がかかる | 簡単 |
BPI Tradeでの申し込み手順(支店訪問の実際)
BPI TradeでIPOに申し込む際は、以下の流れになります。
1. IPO情報の確認 BPI TradeのウェブポータルやPSE(フィリピン証券取引所)の公式サイトで、募集期間・公募価格・最低申込株数を確認します。PhilStar、Business Mirror、Manila Bulletinといった英字紙にも掲載されます。BPI Tradeのポータルに「Upcoming IPOs」に近い案内が掲載されることもありましたが、網羅性という点ではPSE公式サイトの確認を習慣にしていました。
2. BPI支店への来店 募集期間中(通常1〜2週間)にBPI支店の窓口を訪問します。すべての支店でIPO申し込みを受け付けているわけではないため、事前に電話で確認してから足を運ぶのが無難です。筆者はアヤラ通り沿いの支店を利用していました。
3. 申し込み用紙の記入 窓口で所定の申込書を受け取り、銘柄名・申込株数・引き落とし口座を英語で記入します。書式はシンプルで、英語が苦手でも迷う箇所は少ないです。
4. 申し込み代金のロック 申込金額分がBPI口座に残高として存在していることが前提です。申し込み後はその金額がロックされ、配分確定まで動かせなくなります。人気銘柄は資金を長く縛られる可能性があるため、生活費と投資資金の分離は重要です。
5. 配分結果の確認と入庫 上場前日〜上場日にかけて配分結果がBPI Trade口座に反映されます。上場当日の朝には取得株式が入庫され、その日から売買が可能になります。
BDO Nomura(現BDO Securities)がオンラインで完結できる点と比べると、支店訪問が必要なBPI Tradeはやや手間がかかります。それでも筆者がBPI Tradeを使い続けた理由は、メインバンクがBPIであり口座間の資金管理がシンプルだったためです。
フィリピンIPOの割り当て方式
日本のIPOは完全抽選制ですが、フィリピンのIPOは申し込み資金が多いほど多くの株式が割り当てられる仕組みです。つまり資金力のある投資家が有利になります。
日本のIPOとの違い
フィリピンIPOに何度か参加して、日本の市場との差を強く感じた点をまとめます。
| 比較項目 | フィリピン(PSE) | 日本(東証) |
|---|---|---|
| 割り当て方式 | 比例配分(申込金額が多いほど多く取得) | 完全抽選制(資金力に関係なく当選確率は同じ) |
| 目論見書の言語 | 英語・タガログ語のみ | 日本語 |
| 上場後の流動性 | 銘柄によって大きく差がある | 比較的安定 |
| IPO後の初値 | 公募割れになるケースも珍しくない | 公募を上回るケースが多い(近年) |
| 情報の入手しやすさ | 英語での自力収集が必要 | 日本語で充実 |
| 資金ロック期間 | 申し込み〜上場まで数週間 | 同程度だが日本語サポートあり |
個人的な印象として、フィリピンのIPOは「知名度・規模の大きい企業ほど資金が集中する」傾向が日本以上に強く、中小規模の銘柄は上場後に値動きが乏しくなることが多いと感じました。「IPOは公募より上で始まって利益が出やすい」という日本でのイメージは、フィリピン市場では必ずしも成り立ちません。
実際の結果
4回以上参加して、利益が出たものも損失が出たものも両方ありました。以下に代表的な4案件の詳細を記します。
1. Robinsons Retail Holdings(RRHI)/2013年上場 日常的に利用していたロビンソンズモールを運営するロビンソングループのリテール部門のIPOです。「事業内容が肌でわかる企業」という基準で参加を決めました。上場後は公募価格を上回る水準で推移し、初のフィリピンIPO参加としてプラスの結果で終えられました。「知っている企業に投資する」というシンプルな基準が機能した事例です。
2. Double Dragon Properties(DD)/2014年上場 ジョリビー・フーズ創業者のトニー・タン・カクティオンが立ち上げた不動産デベロッパーです。フィリピンの不動産ブームへの期待感から参加しました。上場後に大きく上昇した局面がありましたが、筆者は早い段階で売却してしまい、その後の上昇分を取り逃しました。「利益確定のタイミングが早すぎた」という反省が強く残った案件です。
3. Pilipinas Shell Petroleum(SHLPH)/2016年上場 シェルブランドのフィリピン石油会社です。知名度と安定配当への期待から参加しましたが、上場後の株価は精彩を欠いた推移が続きました。原油価格の動向に左右される業種特性を甘く見ていたと反省しています。参加した中で最も「期待外れ」だった案件で、資金が長期間塩漬けになりました。この銘柄のその後9年間の詳しい経緯は「フィリピン株IPOに6銘柄参加した結果」にまとめています。
4. Converge ICT Solutions(CNVRG)/2020年上場 フィリピンの急成長インターネットプロバイダーです。コロナ禍での通信需要急増を背景に注目を集め、参加した中で最も応募が集中した案件でした。上場初日に大きく値上がりし、利益確定できました。ただしその後の株価は波乱含みの展開が続いたため、早めに売却判断したのは結果的に正解でした。
IPOで失敗した経験・反省点
最も大きな反省は、「フィリピンでも日本と同様にIPO後は上がる」という思い込みで参加し続けたことです。日本では公募割れが比較的少ないため、フィリピンでも同じ前提で考えていた時期がありました。しかし実際には、特に流動性の低い銘柄では上場後すぐに公募価格を割り込むことも珍しくありません。
また、比例配分方式の特性上「申込金額が多いほど有利」という構造から、1銘柄に資金を集中しすぎてしまいがちでした。Pilipinas Shellの案件では、その後の資金ロックが予想以上に長引き、他の投資機会を逃したと感じています。
さらに、企業情報をすべて英語で読まなければならない点も、日本のIPOとは大きく異なる負担でした。目論見書は数十〜百ページを超える英語文書で、業種によってはタガログ語の規制文書も参照が必要になります。情報収集に割く時間を過小評価していたことも反省点のひとつです。
IPO当選確率・倍率の実感
日本のIPOのような「当選・落選」の概念はなく、申込金額に応じて比例配分される仕組みのため、参加すれば必ず何株かは取得できます。ただし人気銘柄では応募総額が公募規模を大幅に超過するため、申込株数よりも少ない配分になります。
体感として、人気銘柄では申込株数の30〜50%程度の配分になることが多かったです。Converge ICTのような注目案件では、申し込んだ株数のうち実際に割り当てられたのは半数以下でした。一方、あまり注目されない銘柄では申込株数の100%近くが配分されることもありましたが、そうした銘柄は上場後のパフォーマンスも芳しくないことが多く、「全部取れた=それだけ人気がない」と理解するようになりました。
IPO後の株価の動き
参加した案件を振り返ると、上場初日の動きはさまざまでした。RRHIとCNVRGは初日に公募価格を上回る水準で始まり、売却タイミングの判断が重要になりました。SHLPHはほぼ公募価格近辺での始まりから徐々に値を下げていく展開でした。
フィリピン市場全体として、上場初日に「初値買いが急騰→当日中に急落」するパターンをしばしば見かけました。個人的な印象として、フィリピンのリテール投資家は上場初日に売り抜けようとする動きが強く、「上場直後の急騰に飛びつかない」という冷静さが重要だと実感しています。上場後1〜2週間の値動きを見てから判断した方が、感情的な判断を避けやすいです。
フィリピンIPO投資の注意点
- 流動性リスク:上場後も取引が少なく売りにくい場合あり
- 情報収集の難しさ:企業情報は英語・タガログ語のみ
- 資金力による有利不利:富裕層が有利な構造
フィリピンIPOに参加すべきか・すべきでないか
7年間の経験をふまえた、筆者の率直な結論です。
参加をおすすめできる人:
- フィリピンのビジネス環境・企業動向を日常的に把握している方
- 英語の目論見書・財務情報を自力で読める方
- 申し込み資金を数週間ロックしても生活に支障がない方
- フィリピン株の流動性リスクをある程度理解している方
慎重になった方がいい人:
- 「IPOは必ず儲かる」という前提で参加しようとしている方
- 企業の英語情報を読まずに参加しようとしている方
- フィリピン株の売買経験がほとんどない方
- 申し込み資金のロックが生活資金に影響する可能性がある方
筆者の個人的な結論は、「フィリピン市場への理解がある程度深まってから参加する」です。最初の数年はPSEでの通常売買を通じて市場の雰囲気・流動性・企業ごとの特性を肌で感じ、そのうえでIPOに挑戦した方が判断精度は上がります。「日本のIPOの感覚でフィリピンのIPOに参加する」のは、期待値を見誤る原因になりやすいと感じています。
IPO参加のしやすさという点ではBDO Nomura(現BDO Securities)が優れていました。ただしIPOだからといって必ず利益が出るわけではありません。
※この章は2013〜2020年の体験をもとにしています。現在の状況は変更されている可能性があります。必ず最新情報をご確認ください。
実際に使ってみた所感
実際の投資内容
個別株とインデックスファンドの両方に投資しました。最初の投資額は数十万ペソ。現在も運用継続中です。
個別株:PSEに上場しているフィリピン企業の株式を購入。財閥系の大型株が中心です。
インデックス:PSEiに連動するインデックスファンドに積立。個別株より手間がかからず分散効果もあります。
実際に保有した銘柄とその選んだ理由
個別株投資では、「日常生活の中で目にする企業・サービス」を起点に銘柄を絞っていました。マカティに住んでいると、フィリピンの財閥系コングロマリットのブランドや施設が日常的に目に入ります。
Ayala Land(ALI): アヤラ通り・グロリエッタ・BGCなど、筆者の生活圏に直接関係するデベロッパーです。フィリピンの不動産需要の成長に乗れると考えて購入しました。長期保有で配当も受け取り、結果的にプラスで終えられた銘柄のひとつです。
SM Investments(SM): SMモールは生活の拠点であり、事業内容が体で理解できました。フィリピン最大の財閥のひとつで、小売・銀行・不動産を幅広く手がけています。個人的な印象として「フィリピンが成長する限り恩恵を受ける企業」というイメージで保有していました。
PLDT(TEL): フィリピン最大手の通信会社。生活インフラとしての安定性と配当利回りに期待して購入しました。ただし通信業界の競争激化・設備投資の重さが次第に気になり始め、途中で売却した銘柄です。
Jollibee Foods(JFC): フィリピンのファストフード大手で、日常的に利用していたこともあって事業の強さを実感していました。ただし株価はPSEの中でも比較的高水準で推移しており、購入タイミングに悩んだ銘柄でもありました。
PSEの取引時間・取引カレンダーの注意点
PSEの通常取引時間はフィリピン標準時(PST)の午前9時30分〜午後3時30分です。日本時間では午前10時30分〜午後4時30分に相当します(時差:1時間)。
注意すべき特殊な休場ルール:
- フィリピンの祝日は日本より多く、ホーリーウィーク(イースター前後の約1週間)をはじめ、独立記念日・クリスマス・正月など長期休場になる時期があります
- 台風などの自然災害で市場が急遽閉鎖されることがあります。号数(Signal Number)が一定以上に達するとメトロマニラが休業になり、市場も閉まります
- 選挙期間(大統領選・中間選挙)には酒類販売禁止と合わせて市場が落ち着かない時期が続くことがあります
体感として、フィリピンの休場日の多さは日本株投資と比べて「思ったタイミングで動けない」という不便さにつながることがありました。重要な経済指標の発表やグローバルな株価急変が休場日と重なると、翌営業日の値動きが大きくなる傾向もあります。
銘柄の探し方・絞り方(実体験)
PSE全体の上場銘柄数は300社程度で、東証・NYSE と比べると少ないです。銘柄を絞る際に筆者が使っていたアプローチを紹介します。
1. PSEi構成銘柄から始める: PSEi(Philippine Stock Exchange Index)はPSEを代表する30銘柄で構成されるインデックスです。まずこの30銘柄に絞って見ることで、流動性・知名度・規模の面で安定した選択肢に集中できます。
2. 日常生活から逆算する: マカティに住んでいると、どのブランドが強いか・どの企業の施設が増えているかを肌で感じられます。「毎週行くモールの運営会社」「よく使うアプリのサービス会社」など、生活実感から始める銘柄選びは情報収集のモチベーションも維持しやすかったです。
3. 英字紙のビジネス面を読む: Philippine Daily Inquirer・BusinessWorldなどの英字紙のビジネスセクションでは、上場企業の決算・買収・新規事業などが報道されます。毎日全部読む必要はありませんが、気になる企業が出てきたときに確認する習慣を持つと判断材料が増えます。
4. PSE EDGEで開示資料を確認する: PSE EDGEはPSEが運営する公式開示サービスで、上場企業の決算短信・有報に相当する資料が閲覧できます。英語の財務諸表を読む慣れが必要ですが、数字自体は日本の財務諸表と読み方はほぼ同じです。
指値注文・成行注文の使い分け
PSEは日本・米国株と比べて流動性が低いため、注文種別の選択が結果に影響します。
成行注文(Market Order)が向いているケース:
- SM・ALI・BPI・JFCなどPSEiの主要構成銘柄で、売買高が十分にある場合
- 値動きが大きく、タイミングを最優先にしたい場面
指値注文(Limit Order)が向いているケース:
- 流動性が低い中型・小型株を売買する場合
- 指定した価格より不利な価格での約定を避けたい場合
- 体感として、PSEでは成行で注文すると想定より大きなスプレッドを取られることがあり、流動性の低い銘柄では特に指値注文を基本にすることをおすすめします
未約定注文のキャンセル: 指値注文が当日中に約定しなかった場合、翌営業日にも引き継がれます(GTCオーダーの設定次第)。定期的に未約定の注文を確認してキャンセル・再発注する管理が必要です。
配当金の受け取り方・入金タイミング
PSEに上場する主要企業の多くは年1〜2回の配当を実施しています。
配当金の受け取り方: 配当の権利確定日(Record Date)時点でBPI Trade口座に株式を保有していると、後日配当金がBPI Trade口座の現金残高(Trading Fund)に入金されます。そこからBPI銀行口座へ資金移動することで手元に引き出せます。
入金タイミング: 権利確定日から実際の入金まで、数週間〜1ヶ月以上かかることが多いです。日本の配当支払いと比べると処理が遅い印象で、「いつの間にか入っていた」という感覚で確認することをおすすめします。
税率の確認を: 配当金には源泉徴収が行われます。筆者の場合(日本人・就労ビザ保有・フィリピン居住者)は日比租税条約に基づく税率が適用されていましたが、居住ステータスによって異なります。確定申告が必要かどうかを含め、税務面は専門家への確認をおすすめします。
正直な話:流動性の問題
PSE投資で最も苦労したのが流動性の低さです。日本株・米国株と比べると、売りたいときに希望の価格で売れないケースが多くありました。
これはフィリピン株市場の構造的な問題です。GDPや経済成長率は高くても、株式市場の参加者が少ないため流動性が低い。「国が成長している」と「株式市場が活発」は別の話なのです。
BDO Securitiesとの使い分け
筆者はBDO Securities(旧BDO Nomura)でも証券口座を開設しましたが、メインはBPI Tradeを使っていました。
日本株・米国株との比較
| 項目 | PSE | 日本株 | 米国株 |
|---|---|---|---|
| 流動性 | 低い | 高い | 非常に高い |
| 情報量 | 英語・タガログ語のみ | 豊富 | 豊富 |
| 手数料 | やや高め | 低い | 低い |
| 成長性 | 高い(GDP) | 低い | 中程度 |
PSE投資で感じた日本株との違い(補足)
上の表では表現しきれない、実際に運用して気づいた違いを補足します。
政治ニュースの影響が大きい: フィリピンでは大統領選挙・政策変更・スキャンダルが株価に直接大きな影響を与えることがあります。日本株と比べて個別の政治ニュースへの反応が大きく、「経済の実態よりニュースで動く」という場面が多かったです。
決算発表後の値動きが鈍い: 日本株では好決算翌日に大きく動くことがよくありますが、PSEでは流動性の低さから値動きが翌日以降に分散したり、全体の出来高が増えないまま終わることも珍しくありませんでした。
アナリストカバレッジが薄い: 英語のアナリストレポートが存在する銘柄でも、カバーしているアナリスト数が少なく、情報の分析深度が日本株・米国株より浅い印象があります。自力での企業分析の比重が高くなります。
初心者がやりがちな失敗と対処法
筆者が実際に経験したか、周囲で見聞きした失敗をまとめます。
1. 日本株の感覚で流動性を期待する 「PSEiの大型株なら日本の主要株と同じくらい売れるだろう」と思っていると、売り板が薄くて希望価格で売れないことがあります。中型株以下では特顕著です。対処法:投資前に数日間の出来高を確認し、1日の出来高が投資予定額の10倍以上ある銘柄から始める。
2. 英語情報を読まずに投資する 知名度だけで銘柄を選んで投資すると、業績悪化や事業リスクに気づくのが遅れます。最低限、四半期決算の数字(売上・利益・負債)を確認する習慣を持つことをおすすめします。
3. 短期売買を繰り返す 手数料が往復で約1〜1.5%かかるPSEでの短期売買は、コスト負けするリスクが高いです。個人的な反省として、「少し上がったから売り」を繰り返して利益がコストで相殺されたことがありました。長期保有・コスト意識が重要です。
4. 台風・祝日で動けないことへの無対応 「明日売ろう」と思っていたら台風で市場が閉まった、というケースがあります。重要なニュースが出た際は当日中に判断する癖をつけておくと、予期せぬ休場に備えられます。
BPI TradeでPSE投資を続けるべきか・やめるべきかの結論
7年間のPSE投資経験を踏まえた、筆者の率直な答えです。
続けることをおすすめできる人:
- フィリピンに在住しており、ペソ建て資産を長期で運用したい方
- 英語の財務情報・英字紙のビジネス面を読む習慣がある方
- 流動性リスクを理解した上で、長期保有で対処できる方
- フィリピン経済・企業への理解を深めることに興味がある方
慎重になった方がいい人(またはやめる方向を検討する人):
- 帰国予定があり、フィリピンを離れた後もペソ口座を管理し続けることが難しい方
- 短期で利益を出したい・流動性の高い投資を好む方
- 英語での情報収集が難しく、投資判断に必要な情報を得にくい環境にある方
筆者の個人的な結論として、フィリピン在住中の資産運用手段としてPSE投資は一定の意味があると感じています。ただし、個別株の銘柄選びに時間を割けない場合は、BPI UITFのインデックスファンドに集約する方が管理コスト・精神的負担が低くなります。「PSE個別株に興味があるが時間が取れない」という方は、まずUITFで市場全体に乗り、余力ができたら個別株に挑戦するステップアップが現実的です。
まとめ
フィリピン在住でペソを運用したい方、長期保有で流動性を気にしない方にはPSE投資は現実的な選択肢です。BPI Tradeは口座開設・日々の売買はスムーズですが、IPO申し込みには支店訪問が必要になる点、画面・サポートが英語のみである点は事前に理解しておくと安心です。
※この記事は2013〜2020年の体験をもとにしています。現在の状況は変更されている可能性があります。必ず最新情報をご確認ください。
※投資は自己責任でお願いします。