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PSE投資

フィリピン株を財閥が支配している話|浮動株0.55%・売買停止・自主上場廃止まで起きた市場の構造

マカティに駐在していた7年間、財閥に関係する人たちと会う機会が何度かあった。当時の自分が持っていた「お金持ち」という概念が、まったく違う次元のものだったと気づいた。詳細はぼかすが、日本で「富裕層」と呼ばれる水準とは桁の違う規模の話が、ごく普通の会話の中に出てくることがあった。

フィリピンから帰国した後、PSEに投資してきた銘柄の株主構成を一つひとつ調べた。それまで何となく「大株主がいる」という感覚はあったが、具体的な数字になったとき、自分が投資していた市場の正体が少しずつ見えてきた。

フィリピン株を財閥が支配している話|浮動株0.55%・売買停止・自主上場廃止まで起きた市場の構造

上場企業なのに、株が市場にない

フィリピンを代表する複合企業の一つ、LT Group(ルシオ・タン財閥系)の株主構成を見ると、状況が端的にわかる。

  • 創業家の持ち株会社であるTangent Holdings:約74%
  • 一般株主:約17%
  • 機関投資家:約1.8%

上場企業でありながら、発行済み株式の約4分の3は市場に出回っていない。市場で売買できる株式(浮動株、フリーフロート)は26%以下で、機関投資家の保有はわずか1.8%という数字だ。

日本や米国の大型上場企業では、発行済み株式の過半数を機関投資家が保有し、個人投資家・外国人投資家・財団等が並ぶ構成が一般的だ。創業家や親族関連法人だけで70%以上を押さえている構成は、日米の感覚では「実質的に非公開企業」に近い。

LT Groupに限った話ではない。Ayala Corporation、SM Investments、JG Summit Holdings。PSEの時価総額上位に並ぶ企業の株主構成を見ると、オーナー一族・関連会社が圧倒的な持分を維持していることが多い。上場はしているが、株式の大半は市場に出ていない、というのがPSEの実態だ。

2013年、一斉売買停止事件

私がフィリピンに渡った2013年、PSEはある規制の施行初年度に入っていた。

PSEは上場企業に対して**最低公開株式比率(MPO:Minimum Public Ownership)10%**を義務付けた規制を施行した。2013年1月1日から適用とされ、未達企業は最長6ヶ月の改善猶予期間を経た後、自動的に上場廃止となるとされた。

この規制への違反、あるいは違反リスクがあるとして警告を受けたのは25社。そして2013年1月2日、市場は新年早々に動いた。サンミゲル・ブリュワリーを含む7社が実際に売買停止となった。

中でも象徴的だったのがPAL Holdings(フィリピン航空の持ち株会社)だ。

当時のPAL Holdingsの浮動株比率はわずか0.55%。発行済み株式の99.45%はオーナー側が保有しており、市場で売買できる株はほぼ存在しないに等しかった。

PAL Holdingsは規制に対応するため、2.415億株の私募増資を実施して公開比率を10.22%まで引き上げた。売買再開は2013年7月12日。上場したまま半年間、市場から消えていた。

2013年4月時点でもMPO未達のままだったと報道されているのは、Southeast Asia Cement(2.41%)、Nextstage(1.2%)、そしてPAL Holdings(0.55%)だ。

10%という基準が低く見えるかもしれないが、それすら達成できていない上場企業が複数存在していたのがPSEの現実だった。

株を放出するくらいなら、市場から去る

MPO規制への対応として、一部の企業は浮動株を増やすのではなく、別の選択肢を選んだ。市場から出ていくことだ。

Eton Properties(ルシオ・タン系の不動産開発)、First Metro Investment(メトロバンク=タイ財閥系の証券・投資銀行)、Metro Pacific Tollways(MetroPacificグループの有料道路事業)など、複数の財閥系企業が自主上場廃止の道を選んだ。

最も象徴的な事例は**Energy Development Corporation(EDC)だ。ロペス財閥傘下の大手地熱発電会社であるEDCは、自社株買いを繰り返すことで公開株式比率を0.16%**まで落とし、2018年に上場廃止となった。市場に残っていた株は発行済み株式の0.16%、数字で見ればほぼゼロだ。

このパターンが示していることは何か。財閥オーナーにとって、上場は必要な資金を調達するための手段だった。資金が集まり、上場維持のコストや規制対応の負担が重くなれば、市場から去ることは合理的な選択になる。「会社を広く公開する」という意味での上場ではなかった、ということだ。

上場廃止自体は制度上の手続きに従ったものだ。問題は、そうした判断の過程において一般投資家が外側に置かれていた点にある。株を保有していた個人投資家は、企業側の意思決定が確定してから知ることになる。

この構造が個人投資家に意味すること

浮動株が薄い市場で起きることを整理すると、次のようになる。

出来高が細い。 発行済み株式の大半をオーナー側が保有し、市場に出回る株が少ない。売り手と買い手がマッチしにくく、日次の取引量が極めて薄い銘柄が多い。

株価が少数の取引で大きく動く。 浮動株が少ない銘柄では、まとまった売り注文が入るだけで株価が大きく下落することがある。逆もしかりで、値動きがランダムになりやすい。

機関投資家が入ってこない。 機関投資家は一定の流動性がなければポジションを建てられない。アナリストカバレッジも薄く、定期的な財務分析・業績予想レポートが存在しない銘柄も多い。情報の非対称性が個人投資家に不利に働く。

売りたいときに売れない。 出口が見つからないまま保有を続けることになる。

私がPSEで被った損失——個別株6銘柄のIPO参加と、BPIのUITFを合わせた総損失は約▲350万円、2020年3月のコロナショック時には約▲370万円規模——の背景には、銘柄選択のミスだけでなく、こうした市場の構造があった。

規制側の動きとして、PSEは2017年に新規上場(IPO)における最低公開株式比率を20%に引き上げた。ただしこれは新規上場企業に対する要件であり、既存の上場企業には引き続き10%の基準が適用されている。2026年6月時点で、PSEiの構成銘柄を含む上場企業の半数以上が浮動株20%未満という推計もある。制度的な改善は進んでいるが、市場の構造が変わるには時間がかかる。

まとめ

フィリピン株の流動性が低い本当の理由では、需要側の問題——銀行口座保有率50%、証券口座保有率2.5%という市場参加者の少なさ——を書いた。本記事はその供給側の話だ。

市場に株が出回らない理由は、財閥オーナーが株式を手放さないからだ。MPO規制への対応として、浮動株を増やすのではなく自主上場廃止を選んだ企業が複数存在したという事実が、その構造を端的に示している。

需要側(買う人が少ない)と供給側(売る株がない)の両方が重なった結果として、PSEの流動性の低さは生まれている。二つの記事をセットで読むと、この市場の構造が立体的に見えてくると思う。

フィリピン投資の全損益は全損益マスター記事にまとめている。投資方針の転換についてはフィリピン投資の失敗から学んだことに書いた。


※本記事の内容は公開情報・報道された事実をもとにしています。個別企業・人物への評価や推測は含みません。

※投資は自己責任でお願いします。本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。


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フィリピン株から切り替えた後、私はDMM株で日本株・米国株の取引を始めました。

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