D.M. WenceslaoのIPOに申し込んだ理由を正直に書くと、特に深く考えていなかった。BPI TradeとBDO Securitiesの両方からIPOの案内が届くようになっていて、案内が来たので申し込んだという感じだった。パラニャーケの不動産会社という事業内容も、申し込んでから調べた程度だ。6銘柄の中で最も「なんとなく」参加した銘柄だと思う。
D.M. Wenceslao & Associates(DMW)をIPOで買って8年保有した結果
2018年6月、D.M. Wenceslao & Associates, IncorporatedがPSE(フィリピン証券取引所)に上場した。IPO価格は12.00PHP。10,000株を申し込み、全株取得した。それから約8年が経過した2026年5月時点での株価は4.73PHP。取得価格から61%が失われている状態で、今も10,000株をそのまま保有している。
この記事は、その経緯を事実として記録するものだ。
D.M. Wenceslao & Associatesとはどんな会社か
D.M. Wenceslao & Associates, Incorporated(ティッカー:DMW)は、1960年創業のフィリピンの不動産開発・建設・土地賃貸会社だ。Delfin J. Wenceslao Sr.とDelfin J. Wenceslao Jr.が創業したファミリービジネスで、マニラ首都圏南部のパラニャーケ市を拠点としている。
事業は大きく3つのセグメントに分かれる。第一は土地・建物の賃貸事業で、パラニャーケ市内に保有する商業・産業用地の賃貸が主な収益源だ。第二は建設工事で、土木・構造・建築工事を手がける。第三は土地・コンドミニアムの販売事業だ。
フィリピン全国区での知名度は高くないが、パラニャーケエリアの不動産開発では長年の実績を持つ。パラニャーケ市はニノイ・アキノ国際空港の南側に位置し、BF Homeなどの住宅地や商業エリアが広がる地域だ。同社はこのエリアの大規模な土地を長期にわたって保有・開発してきた。
マカティに在住していた筆者にとって、DMWの事業エリアは直接的に馴染みのある場所ではなかった。ただしパラニャーケはマニラ首都圏の一部であり、空港周辺の不動産需要という観点からは成長余地があると判断していた。
2018年のIPOの背景
DMWのIPOには、通常とは異なる経緯があった。
当初の希望IPO価格は22.90PHPだった。しかし最終確定価格は12.00PHP。当初価格から約48%引き下げられた。これはIPOの募集期間中に機関投資家や個人投資家からの需要が当初の想定を大きく下回ったことを意味する。価格が半値近くまで引き下げられてなお上場を強行したという事実は、市場がその価値評価に慎重だったことを示している。
それでもIPOに参加した。理由はフィリピンの不動産市場全体への期待だった。2018年当時、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業の拡大に伴うオフィス需要の増加、海外出稼ぎ労働者(OFW)の送金による住宅需要、マニラ首都圏周辺部の開発加速という流れがあった。「価格が引き下げられたのなら、より割安になった」という判断が働いた側面もある。
BDO Securitiesで10,000株を申し込み、全株取得した。元本は120,000PHP。今回の保有6銘柄の中で最も大きい投資額だ。
上場直後の値動きと上場来高値の特徴
上場日の2018年6月29日以降、株価はIPO価格12.00PHPを明確に上回ることがなかった。
唯一の例外が2019年4月2日に記録した12.46PHPだ。これが上場来高値となっている。IPO価格12.00PHPからわずか3.8%の上昇に留まり、その後は下落トレンドに入った。
今回記録している6銘柄の中で、DMWには他と異なる特徴がある。Chelsea Logistics(C)は上場初日に11.22PHPの高値をつけてIPO価格10.68PHPから約5%上昇したが、DMWの上場来高値はIPO価格とほぼ同水準だ。つまり、上場後の一時的な上昇局面すら明確には存在しなかったに等しい。IPO価格自体が実態に即した水準かそれ以上だったことを、市場は早期に判断していた。
8年間の株価推移
上場後の株価は概ね低迷が続いた。2020年のコロナ禍は不動産セクター全体に打撃を与えた。オフィス需要の停滞・建設工事の遅延・土地販売の落ち込みという形で事業全般に影響が及んだ。
2023年12月28日、株価は4.20PHPの上場来安値を記録した。IPO価格12.00PHPからは65%の下落だ。
2023年の業績には注目すべき数字がある。売上高は約97.2億PHP(前年比+129.81%)、利益は約73.0億PHP(前年比+244.12%)と大幅に改善した。数字だけを見れば、コロナ禍からの業績回復が顕著だ。しかし株価への反映は限定的で、業績の回復は上場来安値の更新と同時期に起きている。
2026年5月時点の株価は4.73PHP。上場来安値から約13%の回復に留まっている。
損益の整理
数字を整理しておく。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 取得株数 | 10,000株 |
| IPO取得価格 | 12.00PHP/株 |
| 元本 | 120,000PHP |
| 現在株価(2026年5月時点) | 4.73PHP |
| 現在評価額 | 47,300PHP |
| 損益 | 約−72,700PHP(約−61%) |
| 年間配当(概算) | 約900PHP(10,000株 × 0.09PHP) |
元本120,000PHPに対し、現在の評価額は47,300PHP。差し引き約72,700PHPが失われている。
年間配当は10,000株 × 0.09PHP = 900PHP。配当利回りは現在の株価4.73PHPに対して約2%だが、取得価格12.00PHPに対しては0.75%に過ぎない。損失額72,700PHPに対して900PHPの年間配当が焼け石に水であることは、数字を見れば明らかだ。
6銘柄の中でのDMWの位置づけ
今回記録してきた6銘柄の損益をあらためて並べると、DMWの損失率−61%は6銘柄の中で最も低い。つまり相対的には「最もましな結果」の銘柄だ。
ただし元本120,000PHPは6銘柄中最大であり、損失額72,700PHPも大きい。損失率と損失額は別の指標だ。
業績が大幅に改善しているにもかかわらず株価が低迷しているという現状は、PSEという市場の特性を改めて示している。フィリピン株式市場は1日の売買代金がアジア主要市場の中でも低い部類に入り、流動性に乏しい銘柄も多い。業績が改善しても、それを評価する買い手が市場に十分に存在しなければ株価は動かない。DMWはその典型例のひとつだと感じている。
振り返って
IPO価格が22.90PHPから12.00PHPへ大幅に引き下げられたという事実は、振り返れば重要なシグナルだった。市場参加者全体が、当初の22.90PHPという価格設定には応じなかったということだ。それでもIPOに参加したのは、フィリピン不動産への期待が判断を上回ったためだ。
「すでに大幅に引き下げられた価格だから割安なはずだ」という思考は、IPO価格に対して機能するものではない。IPO価格は発行体と引受証券会社が設定するものであり、その引き下げ後の価格が市場の適正価格かどうかはまた別の話だ。
業績が改善しているにもかかわらず株価が上がらないという現状に対して、何かアクションを取るべきかどうかは決めていない。6銘柄の記録を通じて、フィリピン株のIPOへの参加が自分にとって一貫して良い結果をもたらさなかったという事実は確認できた。それがフィリピン市場の構造的な問題なのか、銘柄選択の問題なのか、タイミングの問題なのかは、この記事の中で結論を出す性質のものではない。
現在も10,000株を保有中だ。評価額47,300PHPは口座の中で存在しているが、今後の方針は決めていない。
※本記事は個人の投資体験の記録です。投資は自己責任でお願いします。