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PSE投資

フィリピン株IPOに6銘柄参加した結果|総損益と8年間の振り返り

2014年〜2018年にかけてPSEのIPO・公募に6銘柄参加し、現在も全株保有中。総投資額721,600PHP(約191万円)、現在評価額131,400PHP(約35万円)、総損失率▲82%。6銘柄それぞれの損益・10年以上の投資を通じて見えたこと・日本/米国株に切り替えた理由までを一本にまとめた総括記事。

#PSE#IPO#フィリピン株#損益#SHLPH#CHP#MRSGI#C#MAXS#DMW

2013年にフィリピン・マカティに赴任し、2014年から2018年にかけてPSE(フィリピン証券取引所)のIPO・フォローオン公募に計6銘柄参加した。現在も全銘柄を保有中だ。

総投資額は721,600PHP、現在評価額は131,400PHP、総損失は約590,200PHP(−82%)。

この記事では6銘柄の損益をまとめ、8年間を振り返る。さらに、UITFを含めた10年以上の投資全体を通じて見えたこと、そして日本株・米国株に投資対象を切り替えるに至った理由までを、一本の記事として通しで記録する。


総論:6銘柄 721,600PHP → 131,400PHP(▲82%)の全体像

6銘柄の概要と取得経緯

取得した順に6銘柄を振り返る。

MAXS|Max's Group(2014年) フィリピンで誰もが知るMax's Restaurantを運営する外食グループ。2014年12月のフォローオン公募に参加し、6,000株を17.75PHPで取得した。マカティに住んでいた当時、Max's RestaurantやPancake Houseには実際によく足を運んでいた。「日常的に使っているブランドへの投資」という判断だった。

MRSGI|Metro Retail Stores Group(2015年) ビサヤ地方・ミンダナオ地方を中心に展開するスーパーマーケットチェーン。2015年11月のIPOに参加し、20,000株を3.99PHPで取得した。1株あたりの価格が低かった分、株数が最も多くなった。フィリピンの地方消費市場の拡大への期待が背景にあった。

CHP|CEMEX Holdings Philippines(2016年) メキシコの建材大手CEMEXの現地子会社。2016年のIPOに参加し、10,000株を10.75PHPで取得した。ドゥテルテ政権の「Build Build Build」インフラ投資政策を背景に、セメント需要の拡大を期待した。

SHLPH|Shell Pilipinas Corporation(2016年) ロイヤル・ダッチ・シェルのフィリピン上場子会社。当時フィリピン最大級のIPOのひとつとして注目を集めた。10,000株を67.00PHPで取得したが、その後IPO価格を上回るタイミングで7,000株を売却し、約42,000PHPの利益を確定した。残り3,000株は現在も保有中。

C|Chelsea Logistics(2017年) Dennis Uyが率いるフィリピン最大級の海運・物流グループ。2017年8月のIPOに参加し、10,000株を10.68PHPで取得した。「Build Build Build」政策による港湾・物流インフラ投資への期待と、Dennis Uyという経営者への注目が重なっていた時期だった。

DMW|D.M. Wenceslao & Associates(2018年) パラニャーケ市を拠点とする不動産開発・建設・土地賃貸会社。2018年6月のIPOに参加し、10,000株を12.00PHPで取得した。当初のIPO希望価格22.90PHPから大幅に引き下げられた末の12.00PHPという価格でのIPO参加だった。

6銘柄の損益まとめ

銘柄 取得年 株数 取得価格 現在株価 元本(PHP) 現在評価額(PHP) 損益(PHP) 損失率
SHLPH 2016年 3,000※ 67.00 9.00 201,000 27,000 −174,000 −87%
CHP 2016年 10,000 10.75 0.95 107,500 9,500 −98,000 −91%
MRSGI 2015年 20,000 3.99 1.16 79,800 23,200 −56,600 −71%
C 2017年 10,000 10.68 0.85 106,800 8,500 −98,300 −92%
MAXS 2014年 6,000 17.75 2.65 106,500 15,900 −90,600 −85%
DMW 2018年 10,000 12.00 4.73 120,000 47,300 −72,700 −61%
合計 721,600 131,400 −590,200 −82%

※SHLPHは10,000株取得後、IPO価格を上回るタイミングで7,000株を売却。残り3,000株を保有中。売却益は約42,000PHP。

現在株価は2026年6月時点。

損益の分析

総投資額721,600PHPに対し、現在評価額は131,400PHP。差し引き約590,200PHPが失われている。損失率は約82%だ。

いくつかの数字を整理する。

損失率が最も大きい銘柄:C(Chelsea Logistics) 取得価格10.68PHPに対して現在株価0.85PHP、損失率−92%。取得価格の92%が失われている。

損失率が最も小さい銘柄:DMW(D.M. Wenceslao) 損失率−61%。6銘柄の中では相対的に「ましな」結果だが、それでも元本の6割が失われている。

損失額が最も大きい銘柄:SHLPH(Shell Pilipinas) SHLPHは唯一、一部売却によって約42,000PHPの確定利益を得た銘柄だ。しかし残り3,000株の現在評価額は27,000PHPで、取得原価(3,000株分)に対する損失は174,000PHPに達する。7,000株の売却益42,000PHPと合算しても、SHLPHに関するトータルの損益は依然として大きなマイナスだ。

6銘柄すべてがマイナス プラスで着地した銘柄はひとつもない。部分売却したSHLPHの7,000株だけが確定利益を持つ唯一の取引だ。

なぜIPOに参加し続けたのか

最初にIPOに参加したのは2014年のMAXS(フォローオン公募)だ。当時の認識として「公募価格で買えるのだから、上場後に上昇すれば利益が出る」という単純な期待があった。

フィリピンの経済成長への期待も大きかった。GDP成長率6〜7%台、人口増加、中間層の拡大、消費市場の活性化。これらのデータは実際に存在しており、「成長国への投資は有利なはずだ」という判断の根拠になっていた。

一銘柄参加するたびに、「次こそは業績が伴って株価が上がるかもしれない」という気持ちがあったことも否定できない。日本語によるフィリピン株情報はほぼなく、英語の情報も個人ブログや証券会社のレポートに限られていた。情報の非対称性の中で判断を続けた。

フィリピン株IPOの現実

6銘柄を通じて見えてきた実態を整理する。

上場直後が高値になるパターン Chelsea Logistics(C)は上場初日に上場来高値11.22PHPを記録した。Shell Pilipinas(SHLPH)も上場直後の高値から下落し続けた。上場に向けた期待が株価を一時的に押し上げ、その後は業績に引き戻されるというパターンが繰り返された。

「IPO価格は割安」ではない IPO価格は発行体と引受証券会社が需要調査をもとに設定する。その価格が市場の適正価格に対して割安かどうかは保証されない。DMWは当初22.90PHPから12.00PHPへ大幅引き下げられたが、それでも現在は4.73PHPだ。

経済成長と個別株の乖離 フィリピンのGDPは2010年代を通じて高い成長率を維持した。しかしPSE総合指数(PSEi)は2018年にかけて上昇した後、長期的には低迷している。「国が成長している」と「株式市場が拡大する」は別の話であり、「個別株が上昇する」はさらに別の問題だ。

流動性の低さ PSEは1日の売買代金がアジア主要市場と比べて低い。業績が改善しても買い手が十分に存在しなければ株価は動かない。DMWは2023年に利益が前年比244%増となったが、株価への反映は限定的だった。流動性の低い市場では、業績と株価の乖離が長期間続くことがある。


Shell Pilipinas(SHLPH)|2016年IPO、67PHPが9PHPになるまで

なぜShell PilipinasのIPOに申し込んだのか、今振り返ると理由は二つある。一つはShellというブランドへの信頼だ。マカティに住んでいた7年間、ガソリンスタンドはいつもShellを使っていた。もう一つは、当時フィリピン最大級のIPOとして話題になっていたこと。大きなIPOに乗り遅れたくないという気持ちがあった。今思えば、それだけの理由で10,000株申し込んでいた。

IPO後の株価についてはあまりこまめに確認していなかった。気づいたら大きく下がっていた、というのが正直なところだ。途中で売ろうかと迷ったこともあったが、結局タイミングを逃した。

2016年11月4日、Shell Pilipinas Corporation(旧:Pilipinas Shell Petroleum Corporation、ティッカー:SHLPH)がPSE(フィリピン証券取引所)に上場した。IPO価格は67.00PHP、上場初値は67.20PHPとほぼ公募価格通りのスタートだった。

Shell Pilipinasとはどんな会社か

Shell Pilipinasの歴史は1914年まで遡る。フィリピン最古の石油会社の一つであり、100年以上にわたってフィリピンのエネルギーインフラを支えてきた企業だ。親会社はShell Overseas Investments B.V.で、オランダに本社を置くShellグループの傘下に位置する。

事業の主軸はガソリン・ディーゼル・航空燃料・潤滑油・ビチューメン(アスファルト原料)の精製と販売だ。フィリピン全土にShellのガソリンスタンドを展開しており、長年にわたってフィリピン国内で高い認知度を持つ石油ブランドとして定着している。スタンドには「Shell Select」というコンビニエンスストアや「Deli2go」というデリカテッセン業態も多くの店舗に併設されており、燃料販売以外の収益源も持つ。近年ではEV充電サービスも順次展開を進めており、電動化社会へのシフトを見据えた事業変革にも取り組んでいる。

2023年には社名をPilipinas Shell Petroleum CorporationからShell Pilipinas Corporationに変更した。日本語でいえば「フィリピンのシェル石油」から「シェル・フィリピナス」へという変化で、企業としての方向性を整理する意図があったとみられる。上場時のティッカー「SHLPH」は変わらず使われているが、正式名称は現在Shell Pilipinas Corporationとなっている。

IPO時の注目度

当時、SHLPHはいくつかの理由で注目を集めていた。石油精製・販売という事業の安定性に加え、「PSEi(フィリピン株価指数)入り候補」として名前が挙がっており、75%以上の配当性向という方針も話題になっていた。当時のフィリピンはASEAN有数の高成長経済として認知され始めており、中間層の拡大とともに自動車保有率も上がり、エネルギー需要が伸び続けるという見通しが広く共有されていた。

シェルというグローバルブランドの認知度、100年超の歴史を持つ事業基盤、高い配当性向という三つの要素が重なり、個人投資家の関心を集めていた。PSEi入りが実現すれば、インデックスに連動して買われる需要も加わるという期待もあった。BPI Tradeで口座を持っていた自分は、こうした情報を踏まえてこの銘柄に10,000株を申し込んだ。結果として全株当選した。

2016年のIPO申し込みの流れ

申し込みはBPI Tradeのオンラインシステムから行った。PSEのIPOにはLSI(Local Small Investor)プログラムという制度があり、小口の個人投資家に優先的に株式が配分される仕組みになっている。BPI TradeはこのLSIプログラムに対応しており、口座を持っていればオンラインから申し込みが完結する。

申し込みの手順としては、BPI Tradeにログインした後、IPO申し込み画面から銘柄・希望株数を入力し、必要資金の確認を経て申し込みを確定する形だ。申し込み資金は口座から事前に拘束され、配分結果に応じて精算される。10,000株に申し込んで全株を取得できた。

当時、PSEのIPOに個人として参加できる口座の選択肢は今ほど多くなく、BPI Tradeはその中で使いやすい選択肢の一つだった。手続きのオンライン化が進んでいたこともあり、窓口に足を運ばずに申し込みが完了した。IPO申し込みのシステムはシンプルで、画面の指示に従って操作すれば特に迷う場面はなかった。全株当選という結果になったが、大型IPOで完全当選できるのは当時のLSIプログラムの仕組み上、珍しいことではなかった。

IPO後の株価推移

時期 株価 内容
2016年11月4日 67.00PHP 上場、初値67.20PHP
2017年2月21日 80.00PHP 最高値
2025年5月 4.70PHP 最安値
2026年5月 約9PHP 現在

上場翌年の2017年2月に80PHPの高値をつけた。IPO価格から約19%上昇した水準で、当時は追加購入を検討してもよかったかもしれない局面だった。しかしその後は長期的な下落トレンドに入った。

下落の背景には複数の要因が重なったとみられる。国際原油価格の変動による精製マージンへの影響、電気自動車普及への懸念、石油需要の長期的な縮小見通しといった問題が積み重なった。フィリピン国内で急激にEVが普及したわけではないが、世界的なエネルギートランジションの流れが石油会社全般の株価評価を下げる方向に働いた。

明確な転換点があったわけでもなく、気づけば株価は一桁台へと落ちていた。2025年には最安値4.70PHPをつけ、IPO価格の約93%が失われた水準となった。その後やや回復し、2026年5月時点では9PHP前後で推移している。

部分売却の判断を振り返る

上場後、株価はじりじりと上昇した。IPO価格から約10%ほど上昇したタイミングで7,000株を売却した。正確な売却価格は記憶にないが、73〜74PHP前後だったと思われる。売却益は概算で約42,000PHP。当時は「うまく利益確定できた」と感じていた。

残り3,000株をホールドし続けた理由は、振り返ると明確ではない。「まだ上昇余地がある」という期待があったことは確かだ。配当性向75%以上という方針があったことも、「持っていれば配当が入ってくる」という感覚につながっていた。実際にしばらくの間は配当を受け取り続けており、「元本は減っても配当でカバーできる」という考えがホールドを続ける心理的な理由になっていた。

積極的にホールドを選んだというより、売るタイミングを判断できないまま持ち続けたというのが実態に近い。株価が下がっても「いつか戻るだろう」という思いがあり、損失を確定させることへの心理的な抵抗感も働いた。これはどの銘柄にも共通する、典型的な保有継続の心理だったと思う。

仮に7,000株の売却時に残り3,000株も同時に全額売却していたとすれば、10,000株すべてを73〜74PHP前後で売却でき、トータルで約60,000〜70,000PHPの利益を得られた計算になる。実際には残り3,000株の価値が現在9PHPにまで下落しているため、その差は大きい。

損益の整理

項目 数量 単価 金額
取得(IPO) 10,000株 67.00PHP 670,000PHP
売却(一部) 7,000株 約73PHP 約511,000PHP
売却益(7,000株分) 約+42,000PHP
残保有評価額 3,000株 約9PHP 約27,000PHP
残保有損失(3,000株分) 約−174,000PHP
トータル損益 約−132,000PHP

売却益と残保有損失を合算すると、取得からのトータルは約−132,000PHPのマイナスとなる。

振り返って

部分売却によって損失がある程度抑えられたのは事実だ。ただ、あのとき全株を売却していればという気持ちがまったくないとはいえない。一方で、売却当時に将来の株価がここまで下落すると予測することは難しかっただろうとも思う。株価が10%上昇したタイミングで7,000株を売った判断は、後から見ると早すぎたとも遅すぎたとも言える。正解は常に後からしかわからない。

SHLPHはシェルブランドの認知度があり、上場時のストーリーも整っていた。100年以上の歴史を持つ企業であり、配当性向も高く、PSEi入り候補として語られていた。事業の安定性という観点から見ても、簡単に崩れる銘柄には見えなかった。しかし長期的なエネルギートランジションの流れは、石油会社の株価評価に構造的な影響を与え続けた。

個別銘柄の事業内容だけでなく、業界全体が直面する長期的な変化を見越して判断することの難しさを、この銘柄を通じて実感している。IPO投資と長期保有の難しさを改めて記録として残しておく。

フィリピン株式市場(PSE)における個別株への長期投資は、流動性の低さという問題を常に伴う。売りたいタイミングで売れない、適切な価格で売り手と買い手がマッチしないという状況は、PSEでは珍しくない。SHLPHはPSEの中では比較的流動性が高い銘柄に属するが、それでも東証やニューヨーク証券取引所と比べれば取引量は薄い。

保有を続けることで得られた経験もある。フィリピン株式市場の仕組み、IPO参加の手順、長期保有の心理的な変化、売却判断の難しさ。これらは実際に投資して保有し続けることでしか得られない知識だ。損失が出ているからといって、その経験の価値がゼロになるわけではない。ただ、同じ判断ミスを繰り返さないために、こうして記録として残しておくことには意味があると思っている。

現在も3,000株の保有を続けているが、今後どうするかの判断はまだついていない。PSEiに占める石油セクターの位置づけが変わりつつある中で、SHLPHという銘柄がどこに向かうかを見定める段階にある。売るにしても持ち続けるにしても、次に同様の局面で判断を迫られたときに、今回の経験が何らかの参考になることを期待して記録する。


CEMEX Holdings Philippines(CHP)|2016年IPO、10.75PHPが1PHP以下になるまで

CEMEXのIPOに申し込んだのは、セメントはフィリピンの成長に絶対に必要だと思ったからだ。ドゥテルテ政権が大規模なインフラ投資(Build Build Build)を掲げていた時期で、道路・橋・空港の建設が進めばセメント需要も増えるはずだという読みがあった。理屈としては間違っていなかったと今でも思う。ただ、それが株価の上昇につながるかどうかは別の話だった。

2016年7月18日、CEMEX Holdings Philippines, Inc.(ティッカー:CHP)がPSE(フィリピン証券取引所)に上場した。IPO価格は10.75PHP。当初17PHPで計画されていた公募価格が大幅に引き下げられた上での上場だった。

CEMEX Holdings Philippinesとはどんな会社か

CEMEX Holdings Philippinesは、メキシコに本社を置く世界的なセメント大手CEMEXのフィリピン子会社として設立された企業だ。フィリピン国内においては、APO Cement CorporationとSolid Cementという二つのセメントメーカーを傘下に持ち、APO・Island・Rizalという三つのブランドでセメントを製造・販売していた。

APOブランドはフィリピン南部を中心に強い認知度を持ち、Islandブランドは中部ビサヤ地方、Rizalブランドはルソン島を主な販売エリアとしてきた。こうした地域分散した販売ネットワークが、事業の安定性を支える土台とされていた。

セメントは建設現場や土木工事において欠かせない基礎資材だ。住宅・商業施設・道路・橋梁・空港といったあらゆる建設プロジェクトに使用される。フィリピンでは都市化の進行と人口増加によって建設需要が続いており、セメント産業は内需型の安定事業として位置づけられていた。

上場当時はドゥテルテ政権が掲げる「Build Build Build」と呼ばれる大型インフラ投資計画が注目を集めていた。道路・橋梁・鉄道・空港といった大規模インフラ整備が加速すれば、その材料となるセメントの需要が確実に拡大するという見立てがあり、CHPはその直接的な受益企業として期待された。

その後、2025年にCEMEXグループから切り離される形でConcreat Holdings Philippinesに社名変更した。現在はCEMEXとは別の組織として運営されており、銘柄としての性格も上場当初とは大きく変わっている。

2016年のIPOの背景

CHPのIPOは規模の面で際立っていた。調達額は約250億PHP、当時フィリピン史上3番目に大きいIPOだった。市場の注目度は高く、Build Build Buildという明確な政策的追い風が吹いているように見えた時期だった。

ただしIPO価格の決定過程には曲折があった。当初は17PHPでの公募が予定されていたが、市場の需要動向を踏まえて10.75PHPへと大幅に引き下げられた上での上場となった。この価格引き下げ幅は大きく、当初計画の約37%引きという水準だ。IPO前から価格を大きく下げざるを得なかったという事実は、投資家需要が当初の想定よりも弱かったことを示している。後から振り返れば、この引き下げ幅自体が一つのシグナルだったともいえる。

申し込み期間は2016年7月4日から11日。BPI Tradeのオンラインシステムから10,000株を申し込み、全株を取得した。LSI(Local Small Investor)プログラムを通じた申し込みで、手続きはオンラインで完結した。

上場直後の値動き

上場日は2016年7月18日。上場翌週の2016年7月25日、CHPは11.73PHPの高値をつけた。IPO価格10.75PHPから約9%の上昇が最高値となった。初値こそIPO価格を上回ったものの、上値の勢いは限定的で、大型IPOが時として見せるような急騰には至らなかった。

高値をつけた後、株価はじりじりと下落に転じた。このとき売却しなかった。「まだ上がる余地がある」という感覚があったし、Build Build Buildの本格化という期待も持ち続けていた。明確な判断があって保有を続けたというよりも、売る理由が見当たらなかったというのが実態だ。上場直後の数週間は株価の動向を見ながら売却タイミングを探っていたが、結局そのまま何もしないまま時間が過ぎた。

保有を続けた9年間

その後の株価推移は厳しかった。Build Build Buildは政策として推進されたものの、その効果がセメント企業の業績に反映されるまでには時間がかかった。さらに業界全体の逆風が重なった。建設コストの上昇、国内セメント市場の競争激化、国際的な原材料費の高騰、収益の悪化といった問題が積み重なる中で、株価は下落を続けた。

親会社であるCEMEXグループの財務問題も株価に影響した。メキシコに本社を置くCEMEXは、リーマンショック後に積み上がった多額の負債を長年かけて処理する過程にあり、グループ全体の財務的な重さがフィリピン子会社の評価にも影を落とした。国内事業のファンダメンタルズだけを見ていても、親会社の財務状況という外部要因を制御することはできなかった。

2022年7月5日には最安値0.58PHPを記録した。IPO価格10.75PHPから約94%が失われた水準だ。元本の94%が消えるという事実を見ながら、それでも売却しなかった。この水準で売却しても意味がないという感覚と、さらに下がるかもしれないという恐れが入り混じっていたが、結果として何もしなかった。

2024年には、DaconがCHPの残存株を1株1.42PHPで公開買い付けを実施した。公開買い付け価格は当時の市場価格を上回るものだったが、この機会にも売却しなかった。損失が大きすぎて心理的に踏み切れなかった部分もあるし、手続きの複雑さに対する億劫さもあった。結果として、この出口機会も活かせなかった。

2025年にはCEMEXグループから切り離され、Concreat Holdings Philippinesへと社名変更した。上場時の看板だった親会社との関係が終わり、銘柄としての性格が根本から変わった。

損益の整理

項目 数量 単価 金額
取得(IPO) 10,000株 10.75PHP 107,500PHP
現在評価額 10,000株 約0.95PHP 約9,500PHP
損益 約−98,000PHP(約−91%)

IPO価格10.75PHPに対して約0.95PHPは、下落率にして約91%に相当する。

振り返って

Build Build Buildへの期待は、当時として理解できるストーリーだった。インフラ投資が加速すればセメント需要が伸びるという見立ては論理として筋が通っていたし、約250億PHPの大型IPOがあれほど注目を集めたことには理由があった。

しかし実際には、政策の追い風よりも企業と業界が抱える課題のほうが重かった。親会社CEMEXグループの財務問題がフィリピン子会社の株価に影響した面もあり、個別企業の国内事業だけを見ていては判断しきれない要素があった。さらに、2024年の公開買い付けというもう一度の出口機会も活かせなかった。

IPO価格から91%下落した状態で保有を続けているという事実は、売り時の判断がいかに難しいかを示している。損失が膨らんでいても売却できない、そして出口機会が来ても踏み切れない。この繰り返しがCHPの9年間だった。

SHLPHと並んで、売り時を判断できなかった典型的なケースとして記録しておく。

一連の経緯を通じて学んだことがあるとすれば、「売れるうちに売る」という判断の重要性だ。損失が小さいうちに損切りすること、あるいは利益が出ているうちに利益確定すること。判断を先送りにした結果として生じた損失は、どれだけ時間が経っても取り戻せないことが多い。この記録が、同様の投資判断をしようとしている誰かの参考になれば幸いだ。

CHPはもともとメキシコの親会社の看板を借りる形でフィリピン市場に上場した銘柄だった。親会社の信用力やブランドが株式の評価に組み込まれていたとすれば、グループから切り離されてConcreat Holdings Philippinesになったことは、株式としての価値の根拠が変わったことを意味する。上場時の投資判断の前提が、9年の間に根本から変わってしまっていた。そのことに気づくのが遅すぎた、というのがこの9年間の正直な総括だ。


Metro Retail Stores Group(MRSGI)|2015年IPO、3.99PHPが1.16PHPになるまで

MRSGIのIPOに申し込んだ最大の理由は、公募価格が3.99PHPと他の銘柄に比べて安かったことだ。同じ予算でより多くの株数を取得できると思い、20,000株申し込んだ。他の銘柄が5,000〜10,000株だったのに対してMRSGIだけ倍の株数になったのはそのためだ。ビサヤ地方のスーパーマーケットチェーンという事業内容は、正直あまりよく知らなかった。

2015年11月、Metro Retail Stores Group, Inc.がPSE(フィリピン証券取引所)に上場した。IPO価格は3.99PHP。20,000株を申し込み、全株取得した。それから約11年が経過した2026年5月時点での株価は1.16PHP。取得価格から71%が失われている状態で、今も20,000株をそのまま保有している。

Metro Retail Stores Groupとはどんな会社か

Metro Retail Stores Group, Inc.(ティッカー:MRSGI)は、フィリピン第2位規模のスーパーマーケット・小売チェーンだ。

運営ブランドはMetro Supermarket、Metro Hypermarket、South Superstore、Foodaの4系統。セブ・イロイロ・バコロドといったビサヤ地方の主要都市に強い基盤を持ち、ミンダナオ地方にも展開している。フィリピンの小売業といえばマニラ首都圏の印象が強いが、MRSGIはその外側の地方市場で存在感を持つチェーンだ。

競合はSM Supermarkets(SMグループ)、Robinsons Supermarket(JGサミットグループ)、Puregold(Puregold Price Clubグループ)など、いずれもフィリピンを代表する財閥系の大手チェーン。これらと同じ土俵で地方市場を争う立ち位置にある。

マカティに在住していた筆者にとって、MRSGIは日常的に利用するチェーンではなかった。マカティ周辺にはSMやRobinsonsの店舗が充実しており、MRSGIの店舗に足を運ぶ機会はほとんどなかった。ただし、セブやイロイロを訪れた際に現地で目にすることはあり、地方都市における存在感の大きさは実感していた。

2015年のIPO参加の背景

上場日は2015年11月24日。IPO価格は3.99PHPだった。

2015年当時のフィリピンは、GDP成長率が年率6〜7%台を記録し続けていた時期だ。人口増加・中間層の拡大・消費市場の成長を背景に、小売業への期待が高まっていた。地方都市の経済成長も続いており、マニラ一極集中から地方分散への流れが語られていた。ビサヤ・ミンダナオという地方市場に強いMRSGIは、その流れに乗れる銘柄として映った。

証券口座はBPI Tradeを使った。20,000株を申し込み、全株取得した。

IPO価格3.99PHPという水準は、同時期に取得した他のフィリピン株銘柄と比べて低い。1株あたりの価格が低い分、同じ予算でより多くの株数を取得できる。今回の保有銘柄の中で20,000株という株数はMRSGIが最も多いが、それはこのIPO価格の低さによるものだ。元本は79,800PHP。他の銘柄と同程度の投資額だ。

上場後の株価推移

上場初日から株価はIPO価格を上回る水準で推移し、2016年8月8日に6.00PHPの上場来高値を記録した。IPO価格3.99PHPからは約50%の上昇だ。取得から約9ヶ月で1.5倍になった計算になる。

しかし、この高値が天井となった。その後は下落トレンドに転じ、回復することなく水準を切り下げていった。

2020年、新型コロナウイルスのパンデミックがフィリピンを直撃した。フィリピン政府はマニラ首都圏を中心に、アジア最長クラスのロックダウンを実施した。スーパーマーケットは生活必需品の供給拠点として一定の営業を続けることができたが、客数の減少・衛生対応コストの増加・物流の混乱が業績を圧迫した。2022年10月3日には1.09PHPの上場来安値を記録した。

その後わずかに回復し、2026年5月時点では1.16PHPで推移している。上場来高値6.00PHPからは81%の下落、IPO取得価格3.99PHPからは71%の下落という水準だ。

20,000株という株数について

MRSGIは保有6銘柄の中で株数が最も多い。その理由はIPO価格の低さだ。

1株3.99PHPという価格は、他のフィリピン株IPOと比べて安い水準だった。同じ予算を投じた場合、株価が高い銘柄よりも多くの株数を取得できる。結果として20,000株という株数になった。

損益で見ると、損失率は約71%だが、損失額の絶対値は約56,600PHP。保有6銘柄の中では損失額として比較的小さい部類に入る。ただしこれは元本が約79,800PHPと他より少ないためであり、損失率が小さいわけではない。

株数が多いと、1株あたりの株価変動が損益に与える影響は相対的に大きくなる。1.16PHPから2.00PHPに回復するだけで損益は約16,800PHP改善される計算だ。逆に0.50PHP下落すれば10,000PHPの損失が加算される。

配当について

MRSGIは年間0.06PHPの配当を支払っている。現在の株価1.16PHPに対する配当利回りは約5%だ。

20,000株保有の場合、年間配当は20,000株 × 0.06PHP = 1,200PHPとなる。円換算すると、為替レートによるが数千円程度の水準だ。

損失額約56,600PHPと比較すれば、1,200PHPの年間配当は焼け石に水というほかない。取得から11年間、仮に毎年配当を受け取り続けたとしても累計13,200PHP程度であり、元本の損失には遠く及ばない。

ただし、配当が支払われていること自体は保有を続ける理由のひとつではある。株価が大幅に下落した状態であっても、会社がキャッシュを生み出して株主に還元している事実は、事業継続性の一つの指標となる。損切りをしない理由としては弱いが、保有を続ける心理的な根拠のひとつになっている。

損益の整理

項目 金額
取得株数 20,000株
IPO取得価格 3.99PHP/株
元本 79,800PHP
現在株価(2026年5月時点) 1.16PHP
現在評価額 23,200PHP
損益 約−56,600PHP(約−71%)
年間配当(概算) 約1,200PHP

元本79,800PHPに対し、現在の評価額は23,200PHP。差し引き約56,600PHPが失われている。

振り返って

2015年当時の投資判断の根拠は、フィリピンの個人消費拡大と地方市場の成長だった。大きなテーマとしては誤っていなかった。フィリピンの中間層は確かに拡大し、地方都市の消費市場も成長した。ただし、「マクロの成長が個別企業の株価上昇に直結する」という前提は成立しなかった。

MRSGIが直面した課題はいくつかある。SM・Robinsons・Puregoldという財閥系大手との競争は継続しており、資本力・店舗数・物流網で劣る地方チェーンが競争優位を維持するのは容易ではない。コロナ禍のダメージに加え、Eコマースの浸透という小売業全体を揺るがす構造変化も重なった。

6銘柄の中では損失額が最も小さい。ただし損失率は−71%であり、元本の7割以上が失われている事実は変わらない。配当を受け取りながら保有を続けているが、保有継続に積極的な根拠があるわけでもない。

現在も20,000株を保有中だ。評価額23,200PHPは口座の中で存在しているが、今後の方針は決めていない。


Chelsea Logistics(C)|2017年IPO、10.68PHPが0.85PHPになるまで

Chelsea LogisticsのIPOに参加したのは、フィリピンの海運業に将来性を感じたからだ。フィリピンは7,000以上の島からなる国で、島と島をつなぐ海運は経済の根幹だと思っていた。もう一つ正直に言うと、BDO Securitiesの口座を開設したばかりで、その口座でも投資してみたかったという気持ちがあった。

2017年8月、Chelsea Logistics Holdings Corp.がPSE(フィリピン証券取引所)に上場した。IPO価格は10.68PHP。10,000株を申し込み、全株取得した。それから約9年が経過した2026年5月時点での株価は0.85PHP。取得価格から92%が失われている状態で、今も10,000株をそのまま保有している。

Chelsea Logisticsとはどんな会社か

Chelsea Logistics and Infrastructure Holdings Corp.(ティッカー:C、旧ティッカー:CLC)は、フィリピン最大級の海運・物流グループのひとつだ。

事業は複数のセグメントに分かれている。タンカー部門では石油や化学品の海上輸送を手がける。タグボート部門では曳船や海難救助を行う。RORO(ロールオン・ロールオフ)旅客船部門ではフィリピン国内の島嶼間輸送を担う。そのほか、倉庫・物流サービスや、船舶管理・船員派遣業務も展開している。

この会社を率いるのがDennis Uyだ。セブを拠点とする実業家で、フィリピン有数の財閥系企業グループ「Udenna Corporation」の創業者でもある。Chelsea Logisticsはそのグループの中核会社として位置づけられていた。

フィリピンは7,000以上の島々からなる島嶼国家であり、島間の輸送は船舶に依存する部分が大きい。海運はフィリピン経済の根幹を支えるインフラであり、その点でChelsea Logisticsは成長市場に位置する会社だった。

2017年のIPO参加の背景

IPOの申込期間は2017年7月24日から31日。上場日は2017年8月8日だった。

当時のフィリピンはロドリゴ・ドゥテルテ大統領政権の下、「Build Build Build」と呼ばれる大規模インフラ投資政策が推進されていた。道路・橋梁・港湾・鉄道など、インフラ整備への政府支出が大幅に拡大する計画が発表されており、フィリピン経済全体への楽観的な見方が広がっていた時期だ。

Dennis Uyという人物への注目度も高かった。ドゥテルテ大統領と同じミンダナオ島出身であることから、政権との関係性を期待する見方があった。実際、当時のドゥテルテ政権は地方出身のビジネスパーソンへの支援姿勢を示しており、Dennis Uyはそのシンボル的な存在のひとりとして語られることが多かった。

フィリピン最大級の海運グループのIPO、インフラ政策の追い風、Dennis Uyという経営者への期待。こうした要因が重なった形で、BDO Securitiesを通じて10,000株を申し込んだ。全株取得できた。

上場初日と、そこからの下落

上場初日の2017年8月8日、株価は11.22PHPの高値を記録した。IPO価格10.68PHPからは約5%の上昇だ。これが現在に至るまでの上場来高値となっている。

その後、株価は下落トレンドに入った。上場から間もない時期に上場来高値をつけ、あとは右肩下がりというパターンは、IPO銘柄ではよく見られる動きだ。Chelsea Logisticsはそのパターンに沿った値動きをたどった。

売却のタイミングを逃し、そのまま保有を続けた。

保有を続けた9年間

2018年以降、Dennis Uyのグループは急速な多角化を進めていった。PH Resorts(リゾート・ホテル事業)、Dito Telecommunity(旧Mislatel、通信事業)など、海運以外の分野への投資が相次いだ。

Dito Telecommunityへの投資は特に注目を集めた。フィリピン市場に第三の通信キャリアを誕生させるという大型プロジェクトであり、中国資本との合弁という構造もあって国内外で話題となった。しかし、通信事業への多額の投資はグループ全体の財務に重くのしかかったとされている。Chelsea Logisticsもその影響と無縁ではなかったとの見方がある。

2019年5月には社名が「Chelsea Logistics Holdings Corp.」から「Chelsea Logistics and Infrastructure Holdings Corp.」に変更された。インフラ事業への展開を明確化した変更だが、株価の回復には結びつかなかった。

2026年3月19日には株価が0.75PHPまで下落し、上場来安値を記録した。その後やや戻し、2026年5月時点では0.85PHPで推移している。

直近の業績も厳しい。2026年第1四半期の純損益は約−1億520万PHP(赤字)で、収益面での改善は見えにくい状況が続いている。

損益の整理

項目 金額
取得株数 10,000株
IPO取得価格 10.68PHP/株
元本 106,800PHP
現在株価(2026年5月時点) 0.85PHP
現在評価額 8,500PHP
損益 約−98,300PHP(約−92%)

元本106,800PHPに対し、現在の評価額は8,500PHP。差し引き約98,300PHPが失われている。率にすると約92%のマイナスだ。

配当については記録していないが、近年の業績から考えても配当収入で損失を埋めるレベルには至っていない。

振り返って

IPO参加の判断は、Dennis Uyという実業家への期待とフィリピン海運業の成長性に基づいていた。フィリピンの地理的特性から海運には構造的な需要があると考えたこと、「Build Build Build」政策によるインフラ投資拡大への期待があったこと、IPO価格が適正に見えたこと、これらが重なっての参加だった。

上場初日が高値となり、その後は一貫して下落したという結果は、結果論として見れば上場直後に売却すべきだったということになる。ただし当時の判断として「5%上昇したタイミングで即売却する」という選択肢が現実的だったかというと、そうではなかった。長期保有の前提で取得したという事情もある。

その後の保有継続については、特に積極的な理由があったわけではなく、売り時を逃したままここまで来たというのが実態だ。SHLPH(Shell Pilipinas)CHP(CEMEX Holdings Philippines)といった、同様にIPOで取得してそのまま保有し続けた銘柄と同じ経過をたどっている。

フィリピン株のIPO銘柄、特に創業者個人のカリスマや政治的関係性を材料にした銘柄については、上場後の業績が株価を規定するという当たり前の事実を改めて確認することになった。

現在も10,000株を保有中だ。評価額8,500PHPは口座の中で存在しているが、どうするかはまだ決めていない。


Max's Group(MAXS)|2014年公募、17.75PHPが2.65PHPになるまで

Max's Groupの公募に参加したのは、単純にMax's Restaurantによく行っていたからだ。マカティに住んでいた頃、同僚や友人とMax'sで食事をすることが何度もあった。フィリピンに来て最初に連れて行ってもらったレストランの一つでもある。知っているブランド、実際に使っているブランドの株を買う。それだけの理由だった。今振り返ると、消費者として良いと感じるブランドが投資対象として優れているとは限らないということを、この銘柄から学んだ。

2014年12月、Max's Group, Inc.のフォローオン公募に参加した。取得価格は17.75PHP、6,000株を取得した。それから約12年が経過した2026年5月時点での株価は2.65PHP。取得価格から85%が失われている状態で、今も6,000株をそのまま保有している。

Max's Groupとはどんな会社か

Max's Group, Inc.(ティッカー:MAXS)は、フィリピンの外食産業を代表する企業グループだ。

中核ブランドであるMax's Restaurantは1945年創業。太平洋戦争直後のマニラで、米軍将校たちに揚げ鶏をふるまったのが始まりとされている。「The House That Fried Chicken Built(フライドチキンが建てた店)」というフレーズで知られており、フィリピン人にとって家族の集まりや祝い事の場として長年親しまれてきた国民的チェーンだ。

Max's Groupはそのフラッグシップに加え、複数のブランドを傘下に持つ。朝食・パンケーキで知られるPancake House、日本食をカジュアルに提供するTeriyaki Boy、フィリピン料理のDencio's、鉄板料理のSizzlin' Pepper Steak、フィリピン料理のハイエンドラインKabiseraとAbe、そしてスムージーチェーンのJamba Juice(フィリピン)などだ。

主な出店場所はフィリピン国内のショッピングモールや商業施設。消費者がどこへ行っても目にする機会があり、ブランドとしての認知度は非常に高い。

2014年のフォローオン公募への参加

Max's Groupの現在の形は、2014年に遡る。それ以前に上場していたPancake House, Inc.がMax's Restaurantの運営会社と合併し、統合持株会社として再編成された形でMAXSとして再上場した。複数の外食ブランドを一つの上場企業にまとめるという当時のフィリピン外食業界では珍しい形態だった。

2014年9月4日、株価は41.50PHPの上場来高値を記録した。その後、株価は下落に転じ、同年12月にフォローオン公募が実施された。

フォローオン公募は既存の上場企業が追加で株式を発行して資金調達を行うものだ。IPOとは異なり、すでに市場での株価形成がなされている段階での参加になる。このとき取得価格は17.75PHP。上場来高値41.50PHPからすでに57%以上下落した水準での取得だった。

「高値から大きく下がっている」という状況は、一見すると割安に映る。当時のマカティ在住中、Max's RestaurantやPancake Houseには実際によく足を運んでいた。身近で使い慣れたブランドへの親しみが、投資判断の一因として働いたことは否定できない。BDO Securitiesを通じて6,000株を申し込み、全株取得した。

取得後の株価推移

フォローオン公募での取得後、株価は横ばいから下落基調が続いた。一時的な戻りはあったものの、17.75PHPを超えて推移する局面はなかった。

2020年、新型コロナウイルスのパンデミックがフィリピンを直撃した。フィリピン政府はマニラ首都圏を中心に厳格なロックダウンを長期にわたって実施した。飲食店は店内飲食を禁止または制限され、営業形態の変更を余儀なくされた。Max's Groupも同様で、デリバリーやテイクアウトへの対応で事業継続を図ったが、売上への打撃は大きかった。

レストランビジネスは固定費(賃料・人件費)の比率が高い。売上が減少しても固定費は発生し続けるため、長期的な営業制限は財務を直撃する。コロナ禍の影響はフィリピンの外食チェーン全体に及んだが、MAXSの株価回復は遅かった。

2025年11月17日、株価は2.00PHPの上場来安値を記録した。この時点で取得価格17.75PHPからの下落率は88%に達していた。その後やや戻し、2026年5月時点では2.65PHPで推移している。

損益の整理

項目 金額
取得株数 6,000株
フォローオン公募取得価格 17.75PHP/株
元本 106,500PHP
現在株価(2026年5月時点) 2.65PHP
現在評価額 15,900PHP
損益 約−90,600PHP(約−85%)

元本106,500PHPに対し、現在の評価額は15,900PHP。差し引き約90,600PHPが失われている。率にすると約85%のマイナスだ。

12年間の保有期間中に配当が支払われた時期もあったが、累計の配当収入がこの損失を埋め合わせるレベルに達していないことは明らかだ。

身近なブランドへの投資という判断

投資判断の背景として、消費者としての経験が影響していたことは記録しておく。

マカティ在住中、Max's RestaurantやPancake Houseには何度も足を運んでいた。週末の昼食、家族や友人との食事、ちょっとした外食。日常の中に自然に存在するブランドだった。フィリピン人の同僚や知人にとっても、Max'sは特別なハレの日の食事の場として認識されていた。

「知っている・使っているブランドへの投資」という考え方はひとつの投資アプローチとして語られることがある。身近な消費行動から良いビジネスを見つけるという発想だ。ただし、消費者として良いと感じるブランドと、株式投資として収益を生む企業は、必ずしも一致しない。ブランドの好感度と企業の収益力・財務健全性・株価水準は別の問題だ。

フォローオン公募での参加は、「すでに高値から大きく下がっている」という判断と「日常的に使っているブランド」という親しみが組み合わさった結果だった。その後の経緯は、どちらの根拠も株価の回復には直結しなかったことを示している。

振り返って

フォローオン公募での取得は、上場来高値41.50PHPから大きく下落した17.75PHPという水準だったが、そこからさらに下落が続いた。「すでに十分下がった」という認識が正しかったかどうかは、その後の株価が答えを出している。

コロナ禍はMAXSにとって特に打撃が大きかった。店内飲食への依存度が高いレストランチェーンにとって、長期的な営業制限は事業の根幹を直撃するものだった。ただし、コロナ禍以前から株価は下落基調にあり、パンデミックはその傾向を加速させた側面もある。

12年間、一株も売却しないまま保有を続けている。SHLPHCHPCと同様、売り時を逃したままここまで来たというのが実態だ。

現在の株価2.65PHPは上場来安値2.00PHPからは回復しているが、取得価格17.75PHPとの差は依然として大きい。現在も6,000株を保有中で、どうするかはまだ決めていない。


D.M. Wenceslao & Associates(DMW)|2018年IPO、12.00PHPが4.73PHPになるまで

D.M. WenceslaoのIPOに申し込んだ理由を正直に書くと、特に深く考えていなかった。BPI TradeとBDO Securitiesの両方からIPOの案内が届くようになっていて、案内が来たので申し込んだという感じだった。パラニャーケの不動産会社という事業内容も、申し込んでから調べた程度だ。6銘柄の中で最も「なんとなく」参加した銘柄だと思う。

2018年6月、D.M. Wenceslao & Associates, IncorporatedがPSE(フィリピン証券取引所)に上場した。IPO価格は12.00PHP。10,000株を申し込み、全株取得した。それから約8年が経過した2026年5月時点での株価は4.73PHP。取得価格から61%が失われている状態で、今も10,000株をそのまま保有している。

D.M. Wenceslao & Associatesとはどんな会社か

D.M. Wenceslao & Associates, Incorporated(ティッカー:DMW)は、1960年創業のフィリピンの不動産開発・建設・土地賃貸会社だ。Delfin J. Wenceslao Sr.とDelfin J. Wenceslao Jr.が創業したファミリービジネスで、マニラ首都圏南部のパラニャーケ市を拠点としている。

事業は大きく3つのセグメントに分かれる。第一は土地・建物の賃貸事業で、パラニャーケ市内に保有する商業・産業用地の賃貸が主な収益源だ。第二は建設工事で、土木・構造・建築工事を手がける。第三は土地・コンドミニアムの販売事業だ。

フィリピン全国区での知名度は高くないが、パラニャーケエリアの不動産開発では長年の実績を持つ。パラニャーケ市はニノイ・アキノ国際空港の南側に位置し、BF Homeなどの住宅地や商業エリアが広がる地域だ。同社はこのエリアの大規模な土地を長期にわたって保有・開発してきた。

マカティに在住していた筆者にとって、DMWの事業エリアは直接的に馴染みのある場所ではなかった。ただしパラニャーケはマニラ首都圏の一部であり、空港周辺の不動産需要という観点からは成長余地があると判断していた。

2018年のIPOの背景

DMWのIPOには、通常とは異なる経緯があった。

当初の希望IPO価格は22.90PHPだった。しかし最終確定価格は12.00PHP。当初価格から約48%引き下げられた。これはIPOの募集期間中に機関投資家や個人投資家からの需要が当初の想定を大きく下回ったことを意味する。価格が半値近くまで引き下げられてなお上場を強行したという事実は、市場がその価値評価に慎重だったことを示している。

それでもIPOに参加した。理由はフィリピンの不動産市場全体への期待だった。2018年当時、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業の拡大に伴うオフィス需要の増加、海外出稼ぎ労働者(OFW)の送金による住宅需要、マニラ首都圏周辺部の開発加速という流れがあった。「価格が引き下げられたのなら、より割安になった」という判断が働いた側面もある。

BDO Securitiesで10,000株を申し込み、全株取得した。元本は120,000PHP。今回の保有6銘柄の中で最も大きい投資額だ。

上場直後の値動きと上場来高値の特徴

上場日の2018年6月29日以降、株価はIPO価格12.00PHPを明確に上回ることがなかった。

唯一の例外が2019年4月2日に記録した12.46PHPだ。これが上場来高値となっている。IPO価格12.00PHPからわずか3.8%の上昇に留まり、その後は下落トレンドに入った。

今回記録している6銘柄の中で、DMWには他と異なる特徴がある。Chelsea Logistics(C)は上場初日に11.22PHPの高値をつけてIPO価格10.68PHPから約5%上昇したが、DMWの上場来高値はIPO価格とほぼ同水準だ。つまり、上場後の一時的な上昇局面すら明確には存在しなかったに等しい。IPO価格自体が実態に即した水準かそれ以上だったことを、市場は早期に判断していた。

8年間の株価推移

上場後の株価は概ね低迷が続いた。2020年のコロナ禍は不動産セクター全体に打撃を与えた。オフィス需要の停滞・建設工事の遅延・土地販売の落ち込みという形で事業全般に影響が及んだ。

2023年12月28日、株価は4.20PHPの上場来安値を記録した。IPO価格12.00PHPからは65%の下落だ。

2023年の業績には注目すべき数字がある。売上高は約97.2億PHP(前年比+129.81%)、利益は約73.0億PHP(前年比+244.12%)と大幅に改善した。数字だけを見れば、コロナ禍からの業績回復が顕著だ。しかし株価への反映は限定的で、業績の回復は上場来安値の更新と同時期に起きている。

2026年5月時点の株価は4.73PHP。上場来安値から約13%の回復に留まっている。

損益の整理

項目 金額
取得株数 10,000株
IPO取得価格 12.00PHP/株
元本 120,000PHP
現在株価(2026年5月時点) 4.73PHP
現在評価額 47,300PHP
損益 約−72,700PHP(約−61%)
年間配当(概算) 約900PHP(10,000株 × 0.09PHP)

元本120,000PHPに対し、現在の評価額は47,300PHP。差し引き約72,700PHPが失われている。

年間配当は10,000株 × 0.09PHP = 900PHP。配当利回りは現在の株価4.73PHPに対して約2%だが、取得価格12.00PHPに対しては0.75%に過ぎない。損失額72,700PHPに対して900PHPの年間配当が焼け石に水であることは、数字を見れば明らかだ。

6銘柄の中でのDMWの位置づけ

今回記録してきた6銘柄の損益をあらためて並べると、DMWの損失率−61%は6銘柄の中で最も低い。つまり相対的には「最もましな結果」の銘柄だ。

ただし元本120,000PHPは6銘柄中最大であり、損失額72,700PHPも大きい。損失率と損失額は別の指標だ。

業績が大幅に改善しているにもかかわらず株価が低迷しているという現状は、PSEという市場の特性を改めて示している。フィリピン株式市場は1日の売買代金がアジア主要市場の中でも低い部類に入り、流動性に乏しい銘柄も多い。業績が改善しても、それを評価する買い手が市場に十分に存在しなければ株価は動かない。DMWはその典型例のひとつだと感じている。

振り返って

IPO価格が22.90PHPから12.00PHPへ大幅に引き下げられたという事実は、振り返れば重要なシグナルだった。市場参加者全体が、当初の22.90PHPという価格設定には応じなかったということだ。それでもIPOに参加したのは、フィリピン不動産への期待が判断を上回ったためだ。

「すでに大幅に引き下げられた価格だから割安なはずだ」という思考は、IPO価格に対して機能するものではない。IPO価格は発行体と引受証券会社が設定するものであり、その引き下げ後の価格が市場の適正価格かどうかはまた別の話だ。

業績が改善しているにもかかわらず株価が上がらないという現状に対して、何かアクションを取るべきかどうかは決めていない。6銘柄の記録を通じて、フィリピン株のIPOへの参加が自分にとって一貫して良い結果をもたらさなかったという事実は確認できた。それがフィリピン市場の構造的な問題なのか、銘柄選択の問題なのか、タイミングの問題なのかは、この記事の中で結論を出す性質のものではない。

現在も10,000株を保有中だ。評価額47,300PHPは口座の中で存在しているが、今後の方針は決めていない。


10年以上投資して見えたこと

含み損を抱えたまま、淡々と数字を開示する。

マカティに7年駐在し、フィリピンの金融口座を開設し、UITFと個別株に10年以上資金を投じてきた。その結果は、お世辞にも良いとは言えない。ただ、隠してもしかたがないので、数字をそのまま出す。誰かの参考になれば、それで十分だ。

なぜフィリピンに投資したのか

きっかけは単純だ。マカティに駐在していたので、現地の銀行口座があり、現地の給与の一部がペソで手元にあった。

「どうせペソが余るなら、フィリピン市場に投資してみよう」という発想だ。当時(2010年代前半)のフィリピン経済は好調で、PSEi(フィリピン株価指数)は2012〜2013年にかけて大きく上昇していた。新興国の成長に乗る、という文脈でも語られていた時期だ。

在住しているからこそ、現地の空気感、経済の実感、企業の名前がわかる。そういう優位性があると思っていた。

結論から言うと、その優位性は幻想だった。

投資した内容

BPI Philippine Equity Index Fund(UITF)

BPIのオンラインバンキングから積み立てた、フィリピン株式インデックスに連動するUITFだ。

2015年から2020年まで積み立て。当初は月5万PHP、2018年頃から月10万PHPに増額。帰国後は積立を停止し、現在もホールドして保有継続中。

項目 金額
元本 約466万PHP(約1,235万円)
現在評価額 約393万PHP(約1,042万円)
含み損 約▲73万PHP(約▲193万円)
損益率 約▲15.7%

約5年間、コツコツ積み立てたインデックスファンドが、マイナスだ。

BPI Trade 個別株3銘柄

IPO時に取得した3銘柄だ。

銘柄 企業名 元本(PHP) 現在評価額(PHP) 含み損(PHP) 損益率
CHP セメックス・ホールディングス・フィリピン 107,500 9,500 ▲98,000 ▲91%
MRSGI メトロリテール・ストアズ・グループ 79,800 23,200 ▲56,600 ▲71%
SHLPH シェル・フィリピン 201,000 27,000 ▲174,000 ▲87%
合計 388,300PHP 59,700PHP ▲328,600PHP ▲85%

※SHLPHはIPO時10,000株取得、7,000株を約+10%で売却済み。本表は残存3,000株のみ。

3銘柄とも、IPO時に購入したままホールド。その後の下落幅は凄まじく、現在は元本の15%程度しか残っていない。

1年間の評価額推移(月次)

直近1年間のUITF評価額の推移だ(概算)。

UITF評価額(PHP) 日本円換算(2.65円/PHP)
2025年4月 420万 約1,113万円
2025年5月 415万 約1,100万円
2025年6月 408万 約1,081万円
2025年7月 401万 約1,063万円
2025年8月 410万 約1,087万円
2025年9月 405万 約1,073万円
2025年10月 398万 約1,055万円
2025年11月 395万 約1,047万円
2025年12月 400万 約1,060万円
2026年1月 396万 約1,049万円
2026年2月 390万 約1,034万円
2026年3月 393万 約1,042万円

上がったかと思えば下がる。下がったかと思えば少し戻る。方向感のないまま、1年が過ぎた。

なぜこうなったのか

正直に分析する。

PSE全体の低迷 フィリピンの株式市場(PSE)は、2018年ごろをピークに長期低迷が続いている。外国人投資家の資金流出、金利上昇、インフレ、政治リスク。これらが重なり、PSEiは2013年のピークを更新できていない状況が続いている。UITFのマイナスは、市場全体の問題だ。

IPO後の株価低迷 個別株の3銘柄は、いずれもIPO時に購入した。IPOに飛びつく、という典型的な失敗だ。

  • CHP(セメックス):建設資材メーカー。フィリピンのインフラ需要を期待したが、競争激化と需要鈍化で低迷。
  • MRSGI(メトロリテール):地方スーパーチェーン。ビサヤ・ミンダナオでの展開を期待したが、SM・ロビンソンズとの競争に苦しむ。
  • SHLPH(シェル・フィリピン):石油メジャーのフィリピン法人。燃料小売りはEV普及や価格変動の影響を受けやすい構造。

3銘柄に共通しているのは、「フィリピンにいたので名前を知っていた」という理由で選んだことだ。知っているのと、企業を分析できるのは別の話だった。

ペソ安の影響 日本円に換算すると、ペソ安がダメージを増幅させている。以前は1PHP=3円台だった時期もある。現在は約2.65円。為替だけで資産が目減りしている計算だ。

日本の米国インデックス投資と比較して

同じ期間に、同じ金額を eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)に投じていたら、どうなっていたか。

試算は難しいが、S&P500は2015〜2026年の11年間でおおよそ3〜4倍になっている。UITF元本の466万PHP(約1,235万円・1PHP=2.65円換算)を米国株に回していれば、現在3,700万〜4,900万円になっていた可能性がある。

UITFの現在評価額は約1,042万円。

差は、2,600万円以上。

この比較は残酷だが、事実だ。「現地にいたから現地投資が有利」は、完全に間違っていた。

それでもフィリピン投資に意味はあったか

金銭的なリターンだけで見れば、フィリピン投資は失敗だった。

ただ、意味がなかったとは思っていない。

現地口座を持った経験は、フィリピンの金融インフラを肌で理解することにつながった。UITFの使い勝手、BPI Tradeの操作性、IPOの仕組み、ペソの動き。これらを実際に体験したことは、この先も資産として残る。

生活体験としての価値もある。マカティに7年いた経験、現地の物価感覚、フィリピン人との仕事や生活。投資のパフォーマンスとは切り離して、その時間は確かに豊かだった。

ただし、「現地経験があるから現地株が有利」は思い込みだった、という教訓も同時に残った。

今後どうするか

UITFについては、いったん解約を検討している。含み損のまま持ち続ける根拠が、今のところ見当たらない。PSEの回復シナリオが描きにくい以上、損切りして日本の口座に資金を移す選択肢が現実的だ。

個別株の3銘柄は、評価額が小さくなりすぎて、売却の手間対効果が薄い状態だ。しばらくそのままにして、市場の動きを見る。

新規での投資は行わない。フィリピンの口座は維持しつつ、投資は日本の証券口座(米国インデックス)に集約する方向で考えている。

まとめ

項目 数字
UITF含み損 約▲73万PHP(約▲193万円)
個別株含み損(BPI Trade 3銘柄) 約▲33万PHP(約▲87万円)
合計含み損(BPI Trade分) 約▲106万PHP(約▲281万円)
投資期間 10年以上

BDO Securities側の3銘柄(C・MAXS・DMW)を含めた全ポジションの合計は約▲132万PHP(約▲350万円)。詳細は全ポジション損益一覧(マスターデータ)へ。

10年以上かけて、約350万円の含み損。

隠さず出した。

同じような境遇の方、あるいはフィリピン投資を検討している方に、一つの実例として届けば十分だ。投資は、現地にいるからといって有利になるとは限らない。それだけは、確信を持って言える。

※この章の数字は2026年6月時点の評価額をもとにしている。為替レートは1PHP=2.65円で換算している。

松井証券

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失敗から学んだこと・日本/米国株に切り替えた理由

前章で、フィリピン株・UITFへの投資結果を数字のまま公開した。合計含み損は約350万円。含み損が最大に達したのは2020年3月のコロナショック時で、UITFと個別株を合わせて約370万円規模に膨らんだ(当時の記録に基づく記憶ベースの概数)。隠さず出した以上、その後どう動いたかも書いておくべきだと思う。

ここからは、その続きだ。

投資歴の概要

最初に投資を始めたのは2007年だ。当時は日本の個別株と投資信託からスタートした。

ライブドアショック、リーマンショックをまともに食らいながら、それでも「長期投資は報われる」という言葉を信じて続けてきた。途中でうまくいったこともあれば、損切りしたこともある。

投資歴だけ見れば20年近くになるが、正直に言えば、うまかったわけではない。

フィリピン投資をしていた時期

2013年、マカティへの駐在が始まった。

現地でBPI口座を開設し、BPI Tradeでの個別株購入を始めたのが2014年ごろ、UITFの自動積立を始めたのが2015年だ。「現地にいるなら現地投資が有利」という根拠のない確信があった。

結果は前章の通りだ。UITFは約▲15.7%、個別株3銘柄は約▲85%。2020年に帰国し、積立は停止。含み損を抱えたまま、ホールドを続けている。

帰国後に投資を見直したきっかけ

帰国してから、改めて自分のポートフォリオを整理した。

フィリピンの含み損、日本株の一部、投資信託の成績。数字を並べたとき、一つの事実が浮かんだ。

「現地にいることと、投資で勝てることは、まったく別の話だった」

駐在中は、現地の空気感、ニュース、企業名を知っているという感覚があった。でも、それは優位性ではなかった。株価は感覚では動かない。インデックスには個人の感覚は関係ない。

この当たり前のことを、お金を失って初めて実感した。

もう一つのきっかけは、フィリピンでの7年間を振り返ったことだ。生活は豊かだった。でも資産形成という観点では、同じ期間に米国インデックスに投じていれば、3倍以上になっていた計算だ。機会損失は、目に見えない形で積み重なっていた。

新NISAを機に、本格的にシフト

帰国後の2021年頃から、米国インデックス投資を本格的に始めた。フィリピン投資の反省を踏まえ、感覚で銘柄を選ぶスタイルをやめ、まずはS&P500への積立から再スタートを切った。

そして2024年、新NISAが始まった。非課税枠の拡大を機に、積立額をさらに引き上げ、投資を本格的に拡大している。理由はシンプルだ。

  • 非課税枠が大きく、長期保有との相性が良い
  • 積立投資の仕組みを一度設定すれば、判断が不要になる
  • フィリピン投資で学んだ「市場を選ぶセンスへの過信」を排除できる

感覚で動く投資から、仕組みで動く投資へ。これが帰国後に出した結論だ。

現在の投資内容

マネックス証券での積立

毎月、以下の3本を積み立てている。

ファンド 特徴
eMAXIS Slim 米国株式(S&P500) 米国大型500社に分散。長期リターンの実績が厚い。AIをはじめとするテック企業の強さが集約されており、今後も成長の中心と判断
eMAXIS Slim 全世界株式(オルカン) 約50カ国・3,000社超に分散。最も広い分散効果
eMAXIS Slim 先進国株式インデックス 日本を除く先進国。米国偏重を緩和する役割

3本に分けているのは、米国一極集中への不安を和らげるためだ。ただし比率はS&P500が最も大きく、今のところそれを後悔していない。米国市場には、AIをはじめとするテック系企業が集中しており、その成長余力を個人が手軽に享受できる点が最大の魅力だと感じている。フィリピン株に注いだ時間と資金を思うと、皮肉ではあるが、それが正直な実感だ。

高配当日本株

数銘柄、保有している。配当収入を積み立ての補完として位置づけている。インデックスとは別に、日本円でのキャッシュフローを作る目的だ。

銘柄の詳細はここでは触れないが、業種分散と配当利回りを基準に選んでいる。

米国個別株(検討中)

将来的に、米国の個別株も一部組み入れたいと思っている。ただし現時点では研究中の段階だ。フィリピン株の失敗で「よく知っているつもり」の危険を学んだので、焦らない。

フィリピン投資の失敗から得た教訓

率直に書く。

新興国株には、今後投資しない。

理由は感情ではなく、数字だ。フィリピン株(PSEi)は2013年のピークから長期低迷。同期間の米国株(S&P500)は3〜4倍。この差は、運ではなく構造的な差だと判断した。

新興国は「成長余地がある」と言われるが、その成長が株価に反映されるかどうかは別問題だ。外国人資金の流出入、通貨リスク、政治リスク、情報の非対称性。これらが重なると、個人投資家がまともに勝てる環境ではない、というのが実体験からの結論だ。

中国株についても同様の結論だ。地政学リスク、政治リスク、経済の低迷が重なっており、今後も投資する予定はない。新興国市場全般に対して、個人投資家として優位に立てる根拠が見当たらない以上、資金を向ける理由がないというのが正直なところだ。

もちろん、これは私の判断だ。新興国投資で成果を出している方もいる。ただ、私には向いていなかった。それだけだ。

読者へのメッセージ

フィリピンに駐在していた、あるいは今している方の中には、同じように現地で投資口座を持っている方もいると思う。

現地口座の体験は価値がある。UITFの仕組みを知ること、ペソで資産を動かすこと、IPOに参加してみること。これらは経験として残る。

でも、資産形成の主軸は別に置いた方がいい、というのが私の今の考えだ。

駐在中でも、日本の証券口座でインデックス積立は続けられる。現地投資と日本投資を分けて考え、現地口座は「体験」、日本口座は「積立」と役割を決める。それが今の自分が出せる、一番正直なアドバイスだ。

失敗を後悔はしていない。ただ、同じ失敗を繰り返す気もない。

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現在の方針

6銘柄すべてを売却せずに保有を続けている。

売却しない理由を正直に書けば、損失を確定することへの抵抗感だ。現時点で売却すれば約590,200PHPの損失が確定する。保有を続ける限り、帳簿上は評価損に過ぎない。この心理的なバリアは、合理的な判断を妨げることがあると理解しながらも、実際の行動には至っていない。

一方で、「いつか回復するかもしれない」という期待は薄れてきている。上場から最短で8年、最長で12年が経過した。業績が改善している銘柄もあるが、株価が取得価格に戻るシナリオを積極的に描くのは難しい。

2020年に帰国してからは、投資の中心は日本株・米国株・インデックスファンドに移行している。フィリピン株はBPI TradeとBDO Securitiesの口座に残ったまま、新たな追加投資はしていない。フィリピン株がポートフォリオ全体に占める比重は自然と下がってきている。

同じ経験をしてほしくない方へ

PSEでのIPO投資を検討している方、あるいはフィリピン株投資を始めようとしている方に、この経験から言えることを率直に書いておく。

経済成長と株式市場の拡大は別の話だ。 フィリピンのGDP成長率は高い。人口も増加している。しかしそれは個別株の株価上昇を保証しない。成長ストーリーは魅力的に見えるが、株価は業績・需給・市場の流動性・ガバナンスなど複数の要因で動く。

IPO価格が「お得」とは限らない。 IPO価格は市場の需要調査をもとに設定されるが、それが適正価格かどうかは別問題だ。上場直後に一時的に上昇したとしても、その水準を維持できるかどうかは事業の実態による。

流動性の低い市場での長期保有リスクを認識しておく。 PSEは売買代金が少なく、小型・中型株では売りたいときに売れない状況が起きやすい。損切りという選択肢が機能しにくい市場では、リスク管理の方法が変わってくる。

分散投資は有効だが、「分散」の範囲を広く取ること。 6銘柄に分散投資したが、すべてPSEのIPO銘柄という点で共通しており、市場全体の低迷に対して分散効果は限定的だった。国・市場・資産クラスをまたいだ分散が必要だった。

これらは経験して初めてわかったことで、事前に知っていれば判断は変わっていたかもしれない。同じ状況に直面する方の参考になれば、この記事を書いた意味がある。


※本記事は個人の投資体験の記録です。数字はすべて概算であり、正確性を保証するものではありません。投資は自己責任でお願いします。