フィリピン株IPOに6銘柄参加した結果
2013年にフィリピン・マカティに赴任し、2014年から2018年にかけてPSE(フィリピン証券取引所)のIPO・フォローオン公募に計6銘柄参加した。現在も全銘柄を保有中だ。
総投資額は721,600PHP、現在評価額は131,400PHP、総損失は約590,200PHP(−82%)。
この記事では6銘柄の損益をまとめ、8年間を振り返る。各銘柄の詳細な取得経緯・損益・振り返りは個別記事で記録しており、この記事ではその総括として整理する。
6銘柄の概要と取得経緯
取得した順に6銘柄を振り返る。
MAXS|Max's Group(2014年) フィリピンで誰もが知るMax's Restaurantを運営する外食グループ。2014年12月のフォローオン公募に参加し、6,000株を17.75PHPで取得した。マカティに住んでいた当時、Max's RestaurantやPancake Houseには実際によく足を運んでいた。「日常的に使っているブランドへの投資」という判断だった。
MRSGI|Metro Retail Stores Group(2015年) ビサヤ地方・ミンダナオ地方を中心に展開するスーパーマーケットチェーン。2015年11月のIPOに参加し、20,000株を3.99PHPで取得した。1株あたりの価格が低かった分、株数が最も多くなった。フィリピンの地方消費市場の拡大への期待が背景にあった。
CHP|CEMEX Holdings Philippines(2016年) メキシコの建材大手CEMEXの現地子会社。2016年のIPOに参加し、10,000株を10.75PHPで取得した。ドゥテルテ政権の「Build Build Build」インフラ投資政策を背景に、セメント需要の拡大を期待した。
SHLPH|Shell Pilipinas Corporation(2016年) ロイヤル・ダッチ・シェルのフィリピン上場子会社。当時フィリピン最大級のIPOのひとつとして注目を集めた。10,000株を67.00PHPで取得したが、その後IPO価格を上回るタイミングで7,000株を売却し、約42,000PHPの利益を確定した。残り3,000株は現在も保有中。
C|Chelsea Logistics(2017年) Dennis Uyが率いるフィリピン最大級の海運・物流グループ。2017年8月のIPOに参加し、10,000株を10.68PHPで取得した。「Build Build Build」政策による港湾・物流インフラ投資への期待と、Dennis Uyという経営者への注目が重なっていた時期だった。
DMW|D.M. Wenceslao & Associates(2018年) パラニャーケ市を拠点とする不動産開発・建設・土地賃貸会社。2018年6月のIPOに参加し、10,000株を12.00PHPで取得した。当初のIPO希望価格22.90PHPから大幅に引き下げられた末の12.00PHPという価格でのIPO参加だった。
6銘柄の損益まとめ
| 銘柄 | 取得年 | 株数 | 取得価格 | 現在株価 | 元本(PHP) | 現在評価額(PHP) | 損益(PHP) | 損失率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| SHLPH | 2016年 | 3,000※ | 67.00 | 9.00 | 201,000 | 27,000 | −174,000 | −87% |
| CHP | 2016年 | 10,000 | 10.75 | 0.95 | 107,500 | 9,500 | −98,000 | −91% |
| MRSGI | 2015年 | 20,000 | 3.99 | 1.16 | 79,800 | 23,200 | −56,600 | −71% |
| C | 2017年 | 10,000 | 10.68 | 0.85 | 106,800 | 8,500 | −98,300 | −92% |
| MAXS | 2014年 | 6,000 | 17.75 | 2.65 | 106,500 | 15,900 | −90,600 | −85% |
| DMW | 2018年 | 10,000 | 12.00 | 4.73 | 120,000 | 47,300 | −72,700 | −61% |
| 合計 | 721,600 | 131,400 | −590,200 | −82% |
※SHLPHは10,000株取得後、IPO価格を上回るタイミングで7,000株を売却。残り3,000株を保有中。売却益は約42,000PHP。
現在株価は2026年6月時点。
損益の分析
総投資額721,600PHPに対し、現在評価額は131,400PHP。差し引き約590,200PHPが失われている。損失率は約82%だ。
いくつかの数字を整理する。
損失率が最も大きい銘柄:C(Chelsea Logistics) 取得価格10.68PHPに対して現在株価0.85PHP、損失率−92%。取得価格の92%が失われている。
損失率が最も小さい銘柄:DMW(D.M. Wenceslao) 損失率−61%。6銘柄の中では相対的に「ましな」結果だが、それでも元本の6割が失われている。
損失額が最も大きい銘柄:SHLPH(Shell Pilipinas) SHLPHは唯一、一部売却によって約42,000PHPの確定利益を得た銘柄だ。しかし残り3,000株の現在評価額は27,000PHPで、取得原価(3,000株分)に対する損失は174,000PHPに達する。7,000株の売却益42,000PHPと合算しても、SHLPHに関するトータルの損益は依然として大きなマイナスだ。
6銘柄すべてがマイナス プラスで着地した銘柄はひとつもない。部分売却したSHLPHの7,000株だけが確定利益を持つ唯一の取引だ。
なぜIPOに参加し続けたのか
最初にIPOに参加したのは2014年のMAXS(フォローオン公募)だ。当時の認識として「公募価格で買えるのだから、上場後に上昇すれば利益が出る」という単純な期待があった。
フィリピンの経済成長への期待も大きかった。GDP成長率6〜7%台、人口増加、中間層の拡大、消費市場の活性化。これらのデータは実際に存在しており、「成長国への投資は有利なはずだ」という判断の根拠になっていた。
一銘柄参加するたびに、「次こそは業績が伴って株価が上がるかもしれない」という気持ちがあったことも否定できない。日本語によるフィリピン株情報はほぼなく、英語の情報も個人ブログや証券会社のレポートに限られていた。情報の非対称性の中で判断を続けた。
フィリピン株IPOの現実
6銘柄を通じて見えてきた実態を整理する。
上場直後が高値になるパターン Chelsea Logistics(C)は上場初日に上場来高値11.22PHPを記録した。Shell Pilipinas(SHLPH)も上場直後の高値から下落し続けた。上場に向けた期待が株価を一時的に押し上げ、その後は業績に引き戻されるというパターンが繰り返された。
「IPO価格は割安」ではない IPO価格は発行体と引受証券会社が需要調査をもとに設定する。その価格が市場の適正価格に対して割安かどうかは保証されない。DMWは当初22.90PHPから12.00PHPへ大幅引き下げられたが、それでも現在は4.73PHPだ。
経済成長と個別株の乖離 フィリピンのGDPは2010年代を通じて高い成長率を維持した。しかしPSE総合指数(PSEi)は2018年にかけて上昇した後、長期的には低迷している。「国が成長している」と「株式市場が拡大する」は別の話であり、「個別株が上昇する」はさらに別の問題だ。
流動性の低さ PSEは1日の売買代金がアジア主要市場と比べて低い。業績が改善しても買い手が十分に存在しなければ株価は動かない。DMWは2023年に利益が前年比244%増となったが、株価への反映は限定的だった。流動性の低い市場では、業績と株価の乖離が長期間続くことがある。
各銘柄の個別記事
各銘柄の詳細な取得経緯・損益・振り返りは個別記事で記録している。
- Shell Pilipinas(SHLPH)IPO体験記
- CEMEX Holdings Philippines(CHP)IPO体験記
- Chelsea Logistics(C)IPO体験記
- Max's Group(MAXS)株式保有体験記
- Metro Retail Stores Group(MRSGI)IPO体験記
- D.M. Wenceslao & Associates(DMW)IPO体験記
現在の方針
6銘柄すべてを売却せずに保有を続けている。
売却しない理由を正直に書けば、損失を確定することへの抵抗感だ。現時点で売却すれば約590,200PHPの損失が確定する。保有を続ける限り、帳簿上は評価損に過ぎない。この心理的なバリアは、合理的な判断を妨げることがあると理解しながらも、実際の行動には至っていない。
一方で、「いつか回復するかもしれない」という期待は薄れてきている。上場から最短で8年、最長で12年が経過した。業績が改善している銘柄もあるが、株価が取得価格に戻るシナリオを積極的に描くのは難しい。
2020年に帰国してからは、投資の中心は日本株・米国株・インデックスファンドに移行している。フィリピン株はBPI TradeとBDO Securitiesの口座に残ったまま、新たな追加投資はしていない。フィリピン株がポートフォリオ全体に占める比重は自然と下がってきている。
同じ経験をしてほしくない方へ
PSEでのIPO投資を検討している方、あるいはフィリピン株投資を始めようとしている方に、この経験から言えることを率直に書いておく。
経済成長と株式市場の拡大は別の話だ。 フィリピンのGDP成長率は高い。人口も増加している。しかしそれは個別株の株価上昇を保証しない。成長ストーリーは魅力的に見えるが、株価は業績・需給・市場の流動性・ガバナンスなど複数の要因で動く。
IPO価格が「お得」とは限らない。 IPO価格は市場の需要調査をもとに設定されるが、それが適正価格かどうかは別問題だ。上場直後に一時的に上昇したとしても、その水準を維持できるかどうかは事業の実態による。
流動性の低い市場での長期保有リスクを認識しておく。 PSEは売買代金が少なく、小型・中型株では売りたいときに売れない状況が起きやすい。損切りという選択肢が機能しにくい市場では、リスク管理の方法が変わってくる。
分散投資は有効だが、「分散」の範囲を広く取ること。 6銘柄に分散投資したが、すべてPSEのIPO銘柄という点で共通しており、市場全体の低迷に対して分散効果は限定的だった。国・市場・資産クラスをまたいだ分散が必要だった。
これらは経験して初めてわかったことで、事前に知っていれば判断は変わっていたかもしれない。同じ状況に直面する方の参考になれば、この記事を書いた意味がある。
※本記事は個人の投資体験の記録です。投資は自己責任でお願いします。
各銘柄の詳細記事
- Shell Pilipinas(SHLPH)をIPOで買って9年保有した結果
- CEMEX Holdings Philippines(CHP)をIPOで買って9年保有した結果
- Metro Retail Stores Group(MRSGI)をIPOで買って11年保有した結果
- Chelsea Logistics(C)をIPOで買って9年保有した結果
- Max's Group(MAXS)の株を買って12年保有した結果
- D.M. Wenceslao & Associates(DMW)をIPOで買って8年保有した結果
- フィリピンIPO参加ガイド|BPI TradeとBDO Nomuraで4回以上参加した実体験