フィリピンで給与をペソで受け取っていた7年間、日本への送金はずっとアナログな方法をとっていた。グリーンベルト内の両替局でペソを円に替えて、現金を持って帰国する。それが自分のやり方だった。数十万円相当の現金を持ち歩くことになるし、帰国のタイミングと為替レートが合わないこともあった。グリーンベルトの両替局は何度も通ううちに顔なじみになり、まとまった金額を替えるときはレートを少し融通してもらえるようになっていた。
はじめに
フィリピンで給与をペソで受け取っている駐在員・現地採用者にとって、日本への送金は避けて通れない問題だ。
筆者はマカティ在住の7年間(2013〜2020年)、グリーンベルト内の両替局でペソを円に両替し、数十万円相当の現金を持ち帰るという方法をとっていた。当時はWiseなどの海外送金サービスが今ほど普及しておらず、これが現実的な選択肢だった。しかし現金持ち帰りにはリスクがあった。この記事では筆者の実体験と、現在利用できる送金方法を比較する。
筆者が実際にやっていた方法:現金持ち帰り
グリーンベルトの両替局の実態
マカティのグリーンベルト(大型ショッピングモール)内には複数の両替局がある。空港の両替より一般的にレートが良く、マカティ在住者にとってアクセスが便利だった。グリーンベルトの各棟に分散して店舗があり、同じ日に複数の店を回ってレートを比べることができた。
当時は帰国のたびに複数の両替局のレートを確認してから両替するのを習慣にしていた。同じグリーンベルト内でも店によって差があり、少し足を動かすだけで有利なレートを選べることがあった。まとまった金額を両替する場合は、担当者に対してレートの交渉を試みることもできた。大きな金額であるほど多少の交渉余地がある印象だった。
持ち帰った金額は帰国のたびに数十万円相当のペソを円に替えていた。1回あたりの規模感としては、数十万円から場合によってはそれ以上になることもあった。
現金持ち帰りのリスク
紛失・盗難リスク
数十万円相当の現金を持ち歩くリスクは無視できない。空港・機内での紛失、スリ・盗難など、現金には常にリスクが伴う。筆者も数十万円相当を持ち帰っていたため、帰国のたびに緊張感があった。
税関申告の問題
日本への現金持ち込みは100万円相当を超える場合は税関申告が必要だ。これを知らずに持ち帰るとトラブルになる可能性がある。申告せずに超過すると没収や罰則の対象になるため、金額の管理と申告の判断が毎回必要になった。
両替レートの問題
両替局のレートは中間レートより必ず不利になる。大きな金額を両替するほど手数料の影響が大きくなる。
銀行送金(BDO・BPI)の実態
BDOからの送金
BDOは外国人が利用する銀行の中では両替サービスに対応していた。ただし事前予約が必要で、日本への帰国便の航空券の提示も求められた。1万円札を1枚ずつシステムに登録する手続きが必要なため、非常に時間がかかる体験だった。帰国タイミング限定という制約があるため、常時使える方法ではなかった。
BDO口座から日本の銀行口座への海外送金は手続き自体は可能だが、送金手数料と銀行レートが不利になる点がある。手続きには本人確認書類に加えて、送金目的の申告・受取先の銀行情報などが必要になる。
BPIからの送金
当時(2013〜2020年)はBPIでの日本円への両替窓口はなかった。BPIはメインの銀行口座・投資口座として非常に便利だったが、円への両替という点では選択肢に入らなかった。BPI口座からの海外電信送金は手続き上可能だったが、手数料が高めで、レートも銀行レートのため不利になる場面があった。
フィリピンの銀行からの海外送金には一般的に送金目的の説明と関連書類の準備が求められ、手続きが煩雑になりやすい。当時の自分が現金持ち帰りを選び続けた主な理由の一つはこの煩雑さだった。
両替場所の比較
グリーンベルトの両替局
筆者がメインで使っていた方法だ。
メリット:パスポート不要で手軽、レートが銀行より良い、複数の両替局を比較できる、手続きが速い
デメリット:現金を持ち歩くリスクがある
BDO銀行の両替サービス
メリット:レートが割と良い
デメリット:事前予約が必要、日本への帰国便の航空券が必要、1万円札を1枚ずつシステムに登録するため非常に時間がかかる、帰国タイミングでしか使えない
BPI銀行
当時はBPIでの日本円への両替はできなかった。両替はグリーンベルトの両替局かBDO銀行を使う必要があった。
空港の両替局
レートが悪く、緊急時のみ推奨。
結論:グリーンベルトの両替局が最もバランスが良い
| 場所 | レート | 手軽さ | 時間 | おすすめ度 |
|---|---|---|---|---|
| グリーンベルト両替局 | ◎ | ◎ | 速い | ★★★ |
| BDO銀行 | ○ | △ | 遅い | ★★ |
| 空港両替局 | △ | ○ | 普通 | ★ |
パスポート不要・レートも良い・手続きが速いグリーンベルトの両替局が最もバランスの取れた選択肢だった。
現在の選択肢:Wiseなどの海外送金サービス
筆者が在住していた2013〜2020年と比べて、現在は海外送金サービスが大きく発展している。
Wise(旧TransferWise)
現在最も人気の高い海外送金サービスだ。中間レートに近いレートで送金でき、手数料が銀行送金より安い。オンラインで完結し、フィリピンペソから日本円への送金に対応している。BPI・BDO口座からWiseへの送金を経由して日本の口座に届けるという流れが利用可能になっている。
2026年7月、実際にWiseを使って35万PHPを送金する機会があった。同時期に街の両替所・空港両替も使ったので、3つの方法を同条件で比較できた。詳細な実測データは後述する。
海外送金にはWiseが便利だ。銀行送金より手数料が安く、レートも中間レートに近い。公式サイトから無料で登録でき、送金レートはリアルタイムで確認できる。
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BPIからの国際送金
BPI銀行口座から直接日本の銀行口座に送金する方法だ。BPI口座があればオンラインで手続き可能で、送金手数料がかかる。レートは銀行レートのため不利になることもある。
2026年7月、Sanrys・空港両替・Wiseを同時期に使って比較した実測データ
2026年7月、フィリピンに残っていたペソをまとまった形で日本に移す機会があり、9日間のうちに街の両替所・空港両替・Wiseの3つを実際に使うことになった。同じ時期に複数の方法を試せたのは偶然だが、せっかくなので条件をできるだけ揃えて記録しておく。以下はすべて実際の明細に基づく数字だ。
街の両替所(Sanrys)|2026年7月20日
いつも利用しているSanrysの両替窓口に350,000PHPを持ち込んだ。
| 項目 | 金額・レート |
|---|---|
| 持込金額 | 350,000PHP |
| 受取額 | 910,000円 |
| 返却された端数 | 560PHP(両替されず) |
| 実際に両替された金額 | 349,440PHP |
| 実効レート | 2.6042円/PHP(910,000÷349,440) |
| 当日仲値 | 2.6348円/PHP |
| スプレッド | 1.16% |
札の単位に満たない560PHPは両替できず、そのまま返却された。実効レートは仲値から1.16%低い水準で、これがSanrysの実質的な両替コストにあたる。
空港(NAIAターミナル3)|2026年7月22日
その2日後、NAIAターミナル3の両替窓口で少額の11,000PHPを両替した。
| 項目 | 金額・レート |
|---|---|
| 持込金額 | 11,000PHP |
| 受取額 | 27,000円 |
| 返却された端数 | 281PHP |
| 実効レート | 約2.456円/PHP |
| 当日仲値 | 約2.63円/PHP |
| スプレッド | 約6.6% |
空港両替のスプレッドはSanrysの5倍以上だった。以前から「空港の両替局はレートが悪く、緊急時のみ推奨」と書いてきたが、この数字はそれを裏付けている。少額であっても、空港両替は最後の手段にとどめるべきだと改めて感じた。
Wise|2026年7月29日
さらに1週間後、BPI口座からWiseへPESONETで350,000PHPを送金した。
| 項目 | 金額・レート |
|---|---|
| 送金金額 | 350,000PHP |
| BPI側の送金手数料 | 0円(PESONETは無料) |
| Wiseの手数料 | 1,293.39PHP |
| 適用レート | 2.6664円/PHP(仲値そのまま) |
| 着金額 | 929,781円 |
| 実効レート | 2.6567円/PHP |
| コスト(仲値からの乖離) | 0.37% |
Wiseは仲値をそのまま適用レートとして使い、手数料はPHP建てで別途差し引く方式だった。結果としてのコスト(仲値からの乖離)は0.37%で、Sanrys(1.16%)・空港(約6.6%)と比べて明確に低い。
「Wiseで2万円得した」は不正確——受取額の差の中身
Sanrysでの受取額910,000円とWiseでの着金929,781円を単純に比べると、差は18,311円になる。ここだけを見て「Wiseに変えたら2万円近く得した」と結論づけたくなるが、それは正確ではない。
この2つの取引には9日間のズレがある。仲値はSanrysの日(2.6348)からWiseの日(2.6664)にかけて動いており、この為替変動だけで350,000PHPあたり約11,060円の差が生まれる((2.6664−2.6348)×350,000)。残りの約7,250円が、両替コストの差(Sanrysのスプレッド1.16% とWiseのコスト0.37%の差)によるものだ。
| 差の内訳 | 金額 |
|---|---|
| 為替変動分(9日間の仲値の動き) | 約11,060円 |
| 手数料率の差(コスト構造の違い) | 約7,250円 |
| 合計(受取額の差) | 約18,311円 |
つまり18,311円の差のうち、Wiseの手数料が安いことによる分は約7,250円にとどまる。残りの約6割は、たまたま2つの取引の間に為替が動いたことによる差であり、Wiseを使ったこと自体の効果ではない。
同じ方法を違う日に比べても、違う方法を同じ日に比べても、為替変動と手数料の差は簡単に混同される。「A社の方がB社より○円得だった」という比較を見るときは、それが本当に手数料の差なのか、単に相場が動いただけなのかを分けて考える必要がある。今回のケースでいえば、Wiseのコスト構造(0.37%)がSanrys(1.16%)や空港(約6.6%)より明確に有利であることは事実だが、「2万円得した」という額面の大きさは為替変動によって水増しされている。
方法別比較
| 方法 | レート | 手数料 | リスク | 手間 |
|---|---|---|---|---|
| 現金持ち帰り | 両替局レート | 両替手数料のみ | 紛失・盗難リスクあり | 手間がかかる |
| Wise | 中間レートに近い | 低め | 低い | オンラインで簡単 |
| 銀行送金(BPI) | 銀行レート | 高め | 低い | オンラインで可能 |
帰国後の送金はどうしているか
帰国後もBPIとBDOの口座にペソが残っている。PSEでの株式投資の資金がBPI口座にあり、売買や配当受け取りの関係で口座を維持し続けている。現在、口座の残高をどう管理するかは引き続き課題になっている。
フィリピンに残っているペソを日本に移す必要が生じた場合、現在の最有力候補はWiseだ。2026年7月に実際に35万PHPを送金し、コスト面での優位性(実測で0.37%)を数字で確認できた。現金持ち帰りのリスクを取る必要性は薄れている。
BPI口座については、PSE投資を続けている関係で当面は維持し続ける見込みだ。BPI Tradeを通じた株式の売買や配当受け取りはオンラインで完結しており、口座を閉じるメリットが今のところない。ただし残高が少なくなった場合は残高維持手数料の問題が生じるため、一定の残高を保ちながら管理を続けている。帰国後も海外口座を維持し続けることには手続き上の手間が伴うが、フィリピン経済と投資への関係を続ける上では必要なコストとして受け入れている。
筆者の正直な意見
当時(2013〜2020年)は現金持ち帰りが最もコスト効率が良い方法だった。2026年7月に実際にSanrys・空港・Wiseの3つを使い比べた結果、現在であればWiseが最もコストが低いという結論に変わった。
理由:数十万円の現金を持ち歩くリスクを避けられる、オンラインで完結するため手間がかからない、そして実測でコスト(仲値からの乖離)が0.37%とSanrys(1.16%)・空港(約6.6%)を明確に下回った。ただし前述の通り、異なる日に取引を比べる際は為替変動の影響を手数料の差と混同しないよう注意が必要だ。
現金持ち帰りを7年間続けた実体験から言えることは、「慣れていたから続けていた」という側面が大きかったということだ。グリーンベルトの両替局の場所を把握していて、レートの比べ方も身についていたため、習慣として続いていた。しかし今回の実測比較を踏まえると、安全性・利便性・コストのいずれの面でも、オンライン送金サービスの方が優位な点が多い。7年間の現金持ち帰りに大きなトラブルはなかったが、リスクに対して無自覚だった部分もあった。今後フィリピンから資金を移す機会があれば、Wiseを最初の選択肢とする。
まとめ
フィリピンから日本への送金方法は現在複数の選択肢がある。現金持ち帰り・Wise・銀行送金それぞれに特徴があり、状況と優先事項に応じて選ぶことになる。2026年7月の実測比較では、コスト(仲値からの乖離)はSanrys 1.16%・空港約6.6%・Wise 0.37%となり、Wiseが最も低コストだった。ただし異なる日に取引を比べる際は、為替変動の影響を手数料の差と混同しないよう注意してほしい。現在フィリピンに住んでいる方はWiseなどのサービスを積極的に検討することをおすすめする。
※この記事は筆者の体験(2013〜2020年、および2026年7月の実測データ)と公開情報をもとにしています。最新の送金レート・手数料は各サービスの公式サイトでご確認ください。